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檸檬香る、その恋に【鬼滅の刃 / 短編集】

第28章 花明かり〈煉獄杏寿郎〉




「灯里さん。ありがとうございます。…俺がもっと強かったら、もっとたくさん鍛錬していればと、何度も思いました。…そうしたら、煉獄さんを、…杏寿郎さんを助けることができたんじゃないか、鬼を倒せていたんじゃないかって…。でも、考えても都合のいい方法は何もなくて。…近道なんか、なくて。足掻くしかない、今の自分が出来ることを精一杯やって、前に進む。どんなに苦しくても、悔しくても。そして俺は、杏寿郎さんのような強い柱に、…必ずなります」


炭治郎の揺るぎない瞳は、灯里と千寿郎を見つめていた。

今のこの気持ちを、どう言い表せばいいのだろう。哀しみと淋しさに覆われていた灯里の心に、再び光が灯っていくようだった。

杏寿郎の姿を見ることは、もうできないけれど、その心にあった熱き灯火は今目の前にいる炭治郎が繋いでくれたのだと、灯里はそう思った。

炭治郎はそのまま記憶を辿るように、ぽつりぽつりと話し続けた。


「…灯里さんの写真を、見せてもらったんです。杏寿郎さんから、列車の中で。そこでようやく、灯里さんと杏寿郎さんはご夫婦だったんだって、知ったんです。…俺、柱合会議で初めて会った時の杏寿郎さんの匂いが忘れられなくて。…あたたかくてやさしい陽だまりのようで、そして誰かのことを心から大切に想っている、そんな匂いでした。そしてその後に、蝶屋敷で灯里さんとお会いした時に、どうして杏寿郎さんと同じ匂いがするんだろうってずっと気になっていたんですが…、灯里さんと杏寿郎さんは、いつもお互いを想い合っていたんですね」


灯里の視界が、涙で溢れていく。

ひとは限られた時間を生きていく中で、どれだけの想いに気付くことができるのだろう。人間の表情など、いつも不確かで、曖昧にも憶測でしかなくて、正しい答えはその本人にしか分からないものばかりで。

言葉があるから伝わる想い。言葉がなくとも、伝わる想い。

この人生において、杏寿郎に出会えたこと、同じ想いでいれたこと。これ以上ない歓びと幸せに、灯里の頬にはひとつだけ涙が伝った。


「炭治郎さん、本当に、本当にありがとうございます。今日、炭治郎さんにお会いできて、本当に良かったです。私も、皆さんの役に立てるよう、日々精進していきたいと思います」

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