第2章 杏子色に導かれて〈不死川実弥〉
かれんはその男性をちらりと横目でみる。銀髪で鋭い目つきだが、不思議と強面な感じがしない。スーツを着ているが、ネクタイはしていないようだった。ワイシャツのボタンを胸のあたりまで外している。かれんは気付くとその男性のことをじっと見つめていた。
(…綺麗な人…)
男性に綺麗などかれんは不謹慎だと思ったが、その男性の何処かあたたかい雰囲気にかれんは完全に目を奪われていた。
すると、その男性がかれんの視線に気付いた。かれんはさっと視線を手元のグラスに戻した。
(…っびっくりした…!でも凄く綺麗な瞳だった…)
かれんは気持ちを落ち着けようと、グラスのカクテルを飲み干した。それでもかれんの高まりは収まらず、アルコールの所為もあるのか、更に強くその鼓動の速さが増していく。
「…仕事帰りですか?」
その男性が、かれんに向かって声を掛けてきた。かれんは吃驚し、恐る恐るその男性を見た。
「はい…そうです」
「俺もです。よく来られてるんですか?」
「いえ!今日初めてで…」
「マスターが作るドリンク、どれも最高で。…つっても、俺はこれが一番のお気に入りで、最近こればっかりなんですけど」
落とすように微笑む彼にかれんは完全に見惚れてしまっていた。
(話すと全然雰囲気が違う…)
「…顔、赤いですけど、大丈夫ですか?」
「えっ!そ、そうですか?!」
かれんは思わず両手で頬を包む。確かにさっきよりも熱を持っているようにも感じる。でもそれはアルコールのせいなのか、その男性のせいなのか分からない。かれんはあたふたしていると、マスターが冷やを持ってきてくれた。
「少しリキュールを入れ過ぎてしまったかな?」
「いえ!そんなことはっ!」
かれんはコップの冷やを飲んでいると、その男性は自分のグラスを一気に飲み干した。
「マスター、俺、彼女を駅まで送ります」
「え!!そんな!一人で帰れますので!!」
「いや、心配なんで。マスターここにお代置いときます」
「いつもありがとうね、実弥くん。お嬢さんをよろしくね」
(…“実弥”さんっていうんだ…っ)
かれんは実弥に手を引かれ、そのバーを後にした。
・・・