第13章 いま、この時だけは、〈煉獄杏寿郎〉
「へえ!スウェーデンかあ…、素敵ですね」
「そうか?…でも時々、日本が恋しくなる」
…あ、この笑顔…
かれんは、落とすような不意に見せる杏寿郎の微笑みに見惚れた。こんなこと有り得ないはずなのにと思うも、かれんの心は既に杏寿郎に惹かれ始めていたのだ。
・・・
ライブが始まるまでの時間、そのひとときをかれんと杏寿郎は愉しんだ。お互い初めて会うのにも関わらず、ずっと前から知っていたような感覚だった。杏寿郎は目を細めて「君とは波長が合うな」と言ってくれたのが、かれんは嬉しかった。
開演時間が近づき、二人はカフェを出た。
「会場は何処だ?」
「ええと…南口を真っ直ぐ行って…」
かれんはスマホで地図アプリを見ながら、その道を指さした。
「すぐ近くだな。…風が冷たい。寒くはないか?」
「…え、ええ。大丈夫です」
「なら良かった。さあ、行こう」
そう言うと、杏寿郎はふわりとかれんの手を取り、握った。かれんは何が起こったのかも分からずに、ただ杏寿郎に手を引かれていた。
…狡い
そう思いながらも、悠々と歩く杏寿郎をかれんは見つめた。きっと側から見たら、自分達は恋人同士に見られているのだろう。誰にでもこんなことをする人なのだろうか。確かにルックスもいいし、知的な話し方にぐっと引き込まれる。きっと多くの女性に言い寄られていたに違いない。
握られた手元が熱い。心臓が煩い。久しぶりに感じる、誰かのぬくもり。こんなにも、人はあたたかい生き物だったのかと、かれんはしっかり握られた杏寿郎の手を見つめた。
でも、泣いてしまいそうなくらい、嬉しかった。
ああ、私はいつもこうやって
すぐに人を好きになる
かれんと杏寿郎はライブ会場に向かっていった。
・・・
ライブ会場には既に観客が大勢いた。海外アーティストの所為もあってか、海外の人も多く見られた。
「何か飲み物はいるか?」
「んー…、じゃあテキーラをショットで一杯だけ」
「そんな強いものを、平気か?」
「一杯だけですから。ライブ前はいつもそうなんです」
「では俺もそうするとしよう」
「杏寿郎さん、お酒は平気なんですか?」
「ああ、一応な」