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檸檬香る、その恋に【鬼滅の刃 / 短編集】

第13章 いま、この時だけは、〈煉獄杏寿郎〉




かれんは気がつくと、その男性の座る椅子の横に立っていた。男性は少し驚いたようにかれんを見つめ、小さく口角を上げて首を傾げた。

「…俺に、何か」

かれんははっとして、自分がとった行動に驚愕しつつもイヤホンを外し、男性にライブのチケットを差し出した。


「このライブに一緒に付き合っていただけませんか?」


そう一言告げると、男性はそのチケットを眺めた。どんな返事が返ってくるのかと、かれんの足元が小さく震えていた。


「ああ、俺で良ければ」

「…!」


あっさりと返ってきた返事に、かれんは嬉しさで思わず頬が緩むが、すぐに冷静を装う。

「だが、何故俺を誘った?」

紅い瞳がかれんを見つめ、それに囚われたかのように動けなくなる。綺麗、と思いながらも、その問いにかれんは躊躇なく言い放った。


「…淋しそうに、していたから」


自分より年上だろう人に、失礼なことを言ってしまったと後悔したが、男性はふと落とすように顔を背けて笑っていた。

「そうか、」

男性は手元のコーヒーを啜って、どこか遠くを見るように外の風景を眺めていた。



 …どうして、
 この人は哀しそうに笑うのだろう───…



かれんの周りに取り巻く雑音が、静かに消えていくようだった。

「…君、名前は?」

男性の瞳が、またかれんに戻る。

「檜原、かれんです」

「俺は、煉獄杏寿郎だ」

「…杏寿郎さん…」

そうかれんが呟くと、杏寿郎はすっと椅子から立ち上がった。かれんよりもぐんと背の高い身長に、何故かどきりと胸が鳴った。

「君のテーブルに、同席しても構わないか?」

「…っはい、大丈夫、です」

かれんの横を通ると、杏寿郎から仄かに香水の香りが漂う。杏寿郎はかれんの向かいの椅子に腰掛けると、また外を眺めていた。かれんも自分が掛けていた椅子に戻った。

「…日本の冬は久しぶりだ」

「…久しぶり?杏寿郎さんって海外にお住まいなんですか?」

「ああ、今はな。生まれはここだが、仕事の関係でもう随分と長い間、スウェーデンにいる」

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