第12章 陽だまりの君を〈時透有一郎〉
(う〜〜…、さむ〜い…)
かれんは玄関を出て、校門に向かっていた。茜色の夕焼け空に冷たい北風が手元を攫う。カーディガンの袖をぎゅっと伸ばして、その指先を覆った。
(今日の夕飯はお鍋だといいな…)
そんな事を思いながら、早足で家へと向かう。
突然、びゅうっと木枯らしが吹いた。
校門に聳え立つ銀杏の葉が紙吹雪のように舞い、はらはらと、かれんの足元に落ちる。
かれんはその葉を一枚拾い上げて、夕陽の光に翳した。ふと思い出されるのは、有一郎が時々見せてくれる笑顔だった。
何故か、締めつけるような切なさが込み上げてくる。
ああ
有ちゃんに 会いたいなあ
「かれん!!!」
かれんははっと我に返った。
後ろを振り向くと、有一郎が走って追いかけてきたのだ。
「…! 有、ちゃん…っ!?」
かれんも有一郎の方へと駆け出す。
有一郎ははあはあと息を切らしながら、かれんの目の前で足を止めた。呼吸を落ち着かせようと、その肩が大きく上下する。
「有、ちゃ…、有一郎くんも、今帰りなの…?」
「そう、だけど」
「…そっか!一緒に帰…」
「っあのさ!!」
「!?」
かれんの言葉が遮られる。有一郎がかれんの瞳をじっと捉えた。
想いを 聲に
しなくちゃ
有一郎は胸に秘めた想いを告げようと、その口を開いた。
「…かれん、今まで、ごめん」
「…え…?!そんな、有一郎くんが、謝る事、何もな…」
「いや、俺…かれんに酷いことばかり、してた」
そう言うと有一郎は俯き、唇を噛む。両掌をぐっと握りしめた。
「…分かってるのに。かれんを傷つけてるって。…なのに、全然、素直になれなくて」
大好きなんだ
いつも 俺の心を照らしてくれる
陽だまりような 君が
大好きだ────
有一郎は顔を上げて、その想いを伝えようとした時、固く握られた拳がかれんの手にふわりと包まれた。
「…!」
「有ちゃんがね、いつも素直な気持ちを伝えてくれることが、私…すごく嬉しいの」
そう言ってにっこり笑うかれんに不意をつかれ、有一郎は声に詰まった。