第12章 陽だまりの君を〈時透有一郎〉
そして秋になると、有一郎と必ず訪れていた場所があった。下校途中にある銀杏並木だった。大きく立派な銀杏が聳え立ち、そこから上を見上げると、黄色一色で空が見えなくなるほどだった。風が吹くと、黄金色が目の前をゆらゆらと舞った。夕陽の光と合わさると、まるで星が降るようだった。
そこに行く時は、いつもより遠回りをする。そして有一郎が自販機のココアを買ってくれた。秋色に染まる木々や草木を見ながら、有一郎とたわいも無いことを話す時間がかれんは大好きだった。
(…もう、高校生、だもんね。ずっと同じじゃ、いられないよね)
きっと、好きな人だっているだろう。有一郎も一人の男性だ。同じ部活動の女子からのアプローチも受けているに違いない(有一郎と無一郎がテレビに出てから女子部員が急激に増えたらしい)。そして将棋の腕前はプロ棋士並みと言われているほどだ。絶対にモテるに決まっている。
(幼馴染の片思いって…切ないなあ…)
かれんは小さく息を吐くと、窓越しに茜色の空を見つめた。
キーンコーンカーンコーン───…
時計を見ると、下校時間の15分前になっていた。
(えっ、もうこんな時間!?早く出ないと…っ!)
かれんは作りかけのポップを急いで鞄にしまうと、図書室の鍵を掛けて、職員室に向かった。
・・・
「…兄さん、またあんな態度とって」
部活動を終えて、有一郎は帰り支度をしていると、双子の弟・無一郎が呆れた表情で話しかけてきた。
「…な、何だよ、突然」
「かれんにもう少し、優しくできないの?」
「っだから、何の話し…っ」
「このままで、いいの?」
「…っ!」
有一郎は、無一郎の言葉に思わずはっとして、下唇をぐっと噛んだ。
そんなこと、自分がよく分かってる
陽の光のように心に差し込んでくる
かれんの笑顔が 好きだ
どんな時も 笑いかけてくれる
かれんが
こんなにも 大好きだ
聲(こえ)にしなければ
この想いは永遠に伝わらない
届かない────
「…お前は先に帰ってろ」
有一郎は吐き捨てるように、教室を飛び出した。
(…兄さんは本当に素直じゃないんだから…)
無一郎は、ふうとため息をついて、一人教室を後にした。
・・・