第12章 陽だまりの君を〈時透有一郎〉
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「かれんー!私達帰るよー?」
その頃、校内の図書室でかれんは、毎年秋に行われる図書委員会の催し物「秋の読書祭」に向けて準備をしていた。
かれんの担当は、物語やファンタジーのジャンルだった。その類の本をブースに並べ、手書きのポップを飾っていた。
「私、もう少し残る!あとちょっとで完成できそうなの!」
「了解〜!じゃ図書室の戸締り、お願いしていい?」
「うん!」
友人達は、また明日ー!とかれんに手を振り、図書室を出て行った。
(…有ちゃん、読んでくれるかな)
かれんの手には「魔法の騎士」というタイトルの本が。かれんがこの図書館で借りた最初の本だった。
読んだ瞬間からそのストーリーの虜になった。何度も借りて読んでは、その騎士の想いに胸を打たれた。悪魔の呪いにかかった主人公の騎士は、呪いの所為で愛する女性にその想いを伝えられなくなってしまう。騎士は女性にその想いを伝えるべく、悪魔を倒すため数多くの苦難を乗り越えていくという長編物語だ。どうしても手に入れたくなり、かなり前に出版された本だったが、偶然にもいつも行く書店で一冊だけ在庫があったのだ。
そして、先日図書室で有一郎とばったり会った時のこと。
『何、その本』
『あ!有ちゃん!久しぶり!図書室で会うなんて初めてじゃない?!』
『…そんなに驚くこと?』
『だってクラス変わっちゃったし、行き帰りも全然会わないから…、会えて嬉しいなって、思ったの』
『〜〜〜…っ、ってかその本っ、何って聞いたんだけど!』
『あ!これね、すごく素敵なお話なの!読書祭で出そうと思ってて…』
『じゃあ貸してよ!読んでみるからっ』
『え!本当?!ありがとう!!すごく嬉しい!!これは図書室ので次の貸し出し予約も入ってるから、今度私のを持ってくるね!』
『う、うん、ありがと…』
(なんか、前より…遠くに感じるなあ…)
自分の好きな本を、有一郎も興味を示してくれたことが嬉しかった。だが、先程の有一郎の反応にかれんは少し寂しさを覚えた。
もう前みたいには なれないのかな
以前は、有一郎から声を掛けてくれて、登下校を共にすることも多々あった。有一郎の双子の弟の無一郎と三人で家で勉強したり、将棋を教えてもらったりもした。