第12章 陽だまりの君を〈時透有一郎〉
「有(ゆう)ちゃん!これ、この間言ってた本!持ってきたよ!」
「…あ、ああ、ありがと…」
夕焼けに染まる放課後の教室に飛び込んできたのは、有一郎の幼馴染、檜原かれんだった。
腕に抱えた本を、嬉しそうに有一郎に指し出す。
「でね!ここのね、栞が挟んであるところ、すっごいハラハラするの!あと、この次の章で主人公が…」
「…ねえ、まだ読んでもないのに、ネタバレとか勘弁してよ。読む意味ないじゃん。…あとその呼び方、やめてって言ったよね?」
「あっ、ご、ごめんごめん…っ、どうしてもまだ慣れ…」
「で、他は?」
「え?」
「…俺、この後部活の集まりあるんだけど」
「あっ、ご、ごめんね…っ。全然、ゆっくり読んでね!…じゃあ、またね」
「…うん、」
かれんは申し訳なさそうに、駆け足で教室を出ていった。その後ろ姿に、有一郎の掌がぎゅっときつく握られる。
有一郎は、はあと大きな溜息をついた。
(…どうして俺はいつも…)
かれんはいつもどんな時もにこにこと微笑みを向けてくれるのだ。その笑顔を見ているのが、有一郎は大好きだった。クラスが離れても、廊下で会えば声をかけれくれた。それだけで有一郎は、本当に嬉しかった。
それなのに、いつも素っ気ない態度をついてしまう自分に嫌気がさしてくる。
かれんとは、物心ついた時から一緒に過ごしていた。家も近所で親同士も仲が良く、何かあれば家族ぐるみでよく出かけたりもしていた。でもいつからか、最近はその誘いがあっても、有一郎は気恥ずかしさから、断るようになっていた。以前と比べて、かれんと過ごす時間が少しずつ減っていた。
いつからだろう
かれんのことを考えると
胸の鼓動が速まり
その笑顔を見ると
緊張してしまうようになったのは
かれんが嬉しそうに話しかけてくれるたびに、胸の奥がきゅうっと苦しくなる。
でもその理由を、有一郎はちゃんと分かっていた。
自分がかれんに、恋心を抱いているということを。
でもどうしても、素直になれないのだ。
もっと、優しくしたいのに。
もっと、話しをしたいのに。
もっと、その笑顔を見ていたいのに。
どうして俺は、素直になれないんだろう