第11章 我が子へ〈煉獄千寿郎〉
"「 千 」
幾千もの愛が降りそそぐ、
豊かで実りある人生になりますように
大きな愛と優しさで人々を包み込み、
誰からも愛されるひととなりますように
貴方の素直な心のままに
私達の元に、生まれてきてくれてありがとう
貴方の母になれて私は幸せです"
千寿郎の目からは止めどなく涙が溢れた。
こんなにも自分という存在を待ち侘び、心から幸せを願ってくれていた瑠火の想いに、言葉にならない喜びが千寿郎の心を満たしてゆく。
「…母上…っ、俺も母上の子として生まれてこれて、幸せです…っ。…もっと、もっと沢山…っ、お話が、したかったです…っ、母上…、会いたい です…っ」
その手紙を胸に当て、千寿郎は誓った。
ありのままの自分で、生きていこうと。
たとえ小さくても、何かの誰かの役に立ちたいと。
今の自分に出来ることは限られているかもしれない。
煉獄家の使命を果たすことは難しいかもしれない。
けれど、生命があり、“今”を生きている。
自分に課せられた運命に、魂は生かされているのだ。
意味があって、ひとはこの世を生きている。
その意味は、死ぬまで分からないかもしれない。
でも、それでもいい。
大切な誰かの為に、そしてその先にある誰かの幸せにも繋がるよう、今の自分ができる最大限のことをしていければいい。
俺が できること
それは 未知数だ
無限だ
"千寿郎
大丈夫です
貴方なら 何でもできますよ"
「…母上…?」
瑠火の懐かしい声が、千寿郎を包み込むように聞こえた気がした。
ふと部屋から見える庭先の百合の花が、風は吹いていないのに、ふわりとたなびく。
千寿郎は日記を抱えたまま庭に出ると、その百合の前に腰を下ろした。
「母上、俺、頑張ります。いつも傍にいてくださって…ありがとうございます」
千寿郎はその文をそっと日記へと戻した。
空には、高く昇った太陽が燦々と千寿郎を照りつける。
「さ、掃除の続きをしなければ!」
千寿郎は太陽に向かって微笑むと、また家の中に戻っていった。