第10章 神様からの贈りもの〈煉獄杏寿郎〉
「おとうさん!こねこがいるよ!!…どうしよう…」
「小夏はここにいてくれ。こむぎを頼む」
「うん…っ」
小夏は心配そうに子猫を見つめる。杏寿郎はこむぎのリードを小夏に手渡すと、木に近寄って背伸びをし「もう大丈夫だ」と宥めながら子猫をそっと抱き寄せた。
「こねこさん、へいき…?」
「ああ、…特に怪我をしている様子もないな…。母猫と逸れてしまったのだろうか…」
子猫は真っ黒な毛色で、両手脚の先が靴下を履いているように白い毛並みで覆われていた。瞳は綺麗なアンバーで、怖がる様子もなく、杏寿郎と小夏をじっと見つめていた。ぽつぽつと雨足が少しずつ強まってきていた。
「おとうさん、どうしよう…」
「このままにしておけないな…。一先ず、一旦家に戻ろう。また晴れたら、此処に戻ってお母さん猫を探してあげよう」
「うん…っ!」
小夏達は、駆け足で自宅へと戻った。
・・・
家に着き、雨で体が濡れてしまった子猫を風呂で洗ってあげると、以前こむぎが使っていたケージに子猫を入れてあげた。こむぎは心配そうに、子猫を見つめていた。
小夏は温めた牛乳を子猫の前にそっと置くと、子猫は腹を空かせていたのか、一瞬で平らげてしまった。小夏はその様子を、こむぎと一緒に座って眺めていた。
「こねこさん、おいしかった?」
子猫はつぶらな瞳で小夏を見つめると、甘えた声でニャーと鳴いた。
「こねこさん、だいじょうぶだよ。わたしがおかあさんをみつけてあげるからね」
「ワン!」
「うん!こむぎもいっしょだもんね!」
こむぎも意気込むように、前脚を小夏の膝の上にぽんと置いた。
・・・
夕方になり雨が止むと、大きな虹が秋の空に大きく半円を描いていた。
「小夏、こっちへおいで。虹が出ているぞ!」
「え!ほんと?!」
杏寿郎は小夏を抱き上げると、ベランダに出て一緒に虹を眺めた。小夏に少し元気がなかった。気になった杏寿郎はやさしく小夏に問う。
「…子猫が心配か?」
「…うん、おかあさんねこさんにあえるかなって。…でもね、いま、にじにおねがいしたの!おかあさんねこさんにあえますようにって」
「そうか!ならば必ず会える!きっと大丈夫だ」
「うん!」