第9章 その香りにときめいて - 幸せのほころび -〈不死川実弥〉
実弥は嬉しそうに目を細め、かれんを見つめた。この笑顔が堪らなく好きだとかれんもにっこり微笑みを返すと、実弥はかれんの手をぎゅっと握しめ、近くのスーパーへと向かった。
・・・
二人は買い出しを終えて、かれんの家に帰宅した。
「なんか手伝うか?」
「ううん、大丈夫よ。ゆっくりしてて?」
「おぅ、ありがとなァ」
実弥はリモコンを取り、ニュースを見始めた。かれんはエプロンを身につけ、早速夕食の支度に取りかかる。
かれんは1LDKのアパートに住んでいた。5階ということもあり眺めも良く、カウンターキッチンから見渡せるのベランダからの景色がお気に入りだった。
そして料理をしながら、リビングにいる実弥の横顔を見るのが好きだった。もし一緒に暮らしたら、この風景が毎日見れるかと思うと、かれんは思わず想像して笑みが溢れる。
鼻歌交じりで食事の準備を進めていると、実弥がキッチンへとやってきた。
「いい匂いすんなァ」
「ふふっ、あともうちょっとでできるからね!」
かれんは焼き上がったハンバーグを皿に盛り付け、最後の仕上げをしていると、突然後ろから実弥に抱きしめられた。
「!?さ、実弥さん…?!」
実弥の顔がかれんの肩に乗る。かれんの体の前で実弥の逞しい腕が交差し、身動きが取れなくなる。互いの体温がじんわりと伝わり合い、実弥は更にぎゅっと強くかれんを抱きしめた。
実弥からの応答がない。実弥の顔も見れないので、かれんどうしていいか分からず、困惑してしまった。
「さ、実弥さん…?どうしたの…?」
「かれんよぉ…、その…、」
「…??」
「…俺と、…結婚してくんねぇか」
「…えっ…?!」
実弥の腕が緩み、かれんはゆっくりと後ろに振り返った。何を言われたのかが理解できず、実弥を見つめたままかれんは固まってしまった。開いた口が塞がらない。
「…え…、今、なんて…?」
「朝も一緒に出勤できて、今もこうやって会えるだけでスゲェ嬉しい。…でもかれんと俺の休みもあんまし被んねェし、…もっと一緒にいてぇなぁって思っちまって。…同棲とも思ったんだが、…ならちゃんとケジメ付けてェなって思って…、ンで、その、急遽、この話しをしてるっつーか…」