第9章 その香りにときめいて - 幸せのほころび -〈不死川実弥〉
(今日と明日を頑張れば、実弥さんに会える…っ!)
実弥を想う度に、胸のときめきが溢れ出しそうになる。香水の香りだけでなく、実弥自身が、かれんのときめきそのものなのだ。
実弥はかれんより3つ年上だった。「ったく…いつまで“サン”付けするつもりだァ?」と何度も実弥に言われているが、かれんはどうしても実弥を“さん”付けで呼んでしまうのだった。
すると、スマホのバイブが鞄の中で鳴った。
かれんはスマホを取り出すと、実弥からのメールが届いていた。
『おはよう。仕事気を付けて。明日はかれんに会えるのを楽しみにしてる。』
通勤デートができない時は、お互いメールを送り合うのが日課だった。実弥のメールの文面に、かれんの顔がほころぶ。
『おはよう!行ってきます!私も実弥さんに会えるの楽しみ^^また連絡するね!』
そう返事を送り、かれんはスマホを鞄にしまった。
(よし!今日も仕事頑張るぞ!)
かれんは電車の窓から、晴れ渡る青空を見上げた。
・・・
そして迎えた日曜日の夕方。
かれんは18時に無事に退勤できると、更衣室で着替えを済ませ、急足で駅に向かった。夕焼け空が辺りのビルを茜色に染めてゆく。
かれんはホームに駆け下り、軽快に電車に飛び乗った。これから大好きな実弥に会えると思うと、うきうきと心が弾む。仕事の疲れなど微塵も感じなかった。スマホを手に取り、実弥に仕事が終わったことを伝えると「了解。駅で待ってる。」とすぐに返事が来た。
(これから実弥さんに会えるのに、もう今すぐに会いたい…っ!)
かれんは目を閉じ、手首に微かに残る香水に再び恋う。
心から誰かを想うことのしあわせを噛み締めながら、かれんは電車の外を流れてゆく家々の灯りを眺めた。
・・・
「実弥さん!」
改札の外でパンツのポケットに手を突っ込んで立つ実弥を見つけ、かれんは駆け寄った。
「よォ、仕事お疲れさん」
実弥は嬉しそうにかれんの頭をぽんぽんと撫でた。
「疲れてねェか?アレだったら外に飯食いに行くか?」
「ううん、大丈夫!実弥さんにね、ハンバーグを作ってあげたくて」
「お、そいつァ楽しみだなァ。じゃ、なんか食材買ってくか」
「うん!」