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檸檬香る、その恋に【鬼滅の刃 / 短編集】

第9章 その香りにときめいて - 幸せのほころび -〈不死川実弥〉




今から半年前のこと。

かれんは通勤中の電車で、不死川実弥という男性に出会った。


その運命的な出会いの日の朝。
かれんはいつもより2本早い電車に飛び乗った。すると突然、鼻先を掠めた爽やかな香り。その香りのする方に顔を向けると、とある一人の男性に目が留まった。白銀髪に、長い睫毛と吸い込まれそうな大きな瞳。かれんはその容姿に目を奪われ、瞬く間に恋に落ちた。今でもあの瞬間を思い出すと、かれんの鼓動はどきどきと速まる。

見ず知らずの二人を繋いだのは、実弥が身につけていた香水だった。出会ったその日から、かれんは惹きつけられるように実弥の虜になっていったのだった。

・・・

そして今、その香りがかれんの部屋にふわりと漂う。

かれんの誕生日に、実弥がプレゼントとして贈ってくれたのだ。


 (落ち着くなあ…)


かれんは出勤前に必ずその香水をつけた。離れていても二人を繋ぐ香り。まるで実弥の腕の中にいるかのようで、思わず笑みが溢れてしまう。かれんはこの香りが大好きだった。

(…って、やばっ!仕事遅れちゃう!)

かれんは家を出ると、駆け足で駅へと向かった。

・・・

実弥は中学校で教員をしており、かれんはデパートの化粧品コーナーで働いていた。ほぼカレンダー通りの休みの実弥と、シフト勤務のかれんとは、なかなか休みが被りにくい。しかし、出勤時は同時刻の電車なので通勤デートができるのだ。朝の数十分の時間が、二人にとって何よりも幸せだった。

今日は土曜日で、実弥は休みだ。実弥との通勤デートはないので、少しばかり寂しい気持ちになるが、家を出る前に手首につけたお揃いの香水が、かれんの心をふんわりと和ませる。


(…やっぱり、いい香り…!)


思わずかれんの頬が緩む。かれんは鞄の中から手帳を取り出し、明日の日曜日を見つめ、再び口元が緩んでしまいそうになるのを、手で押さえた。

明日は仕事後、実弥と駅で待ち合わせをして、夕飯をかれんの家で食べることになっていた。
数週間前から実弥の中学校がテスト期間に入り、かれんも繁忙期だったため、実弥とのんびり過ごせるのは久しぶりだった。しかも月曜日は祝日。実弥も休みで、かれんも公休だった。

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