第8章 花咲く夜に〈煉獄杏寿郎〉
「…さ、302号室…」
『分かった!すぐに行く!』
杏寿郎からの電話は途切れ、かれんはスマホを枕元に置いた。ばくばくと心臓が煩い。かれんは薄手のカーディガンを羽織った。
ピンポーン───…
インターホンが鳴り、かれんはベッドから降りて、緊張のあまりそのまま玄関へと向かった。そこから「はい」と返事をすると「杏寿郎だ!」と聞こえた。
かれんは手櫛でさっと髪を整え、施錠を外しそっとドアを開けると、そこには心配そうに眉尻を下げた杏寿郎がいた。
「…すまない、押しかけるようなことをしてしまった。…体調は大丈夫か?」
「う、うん!お陰様で、大分楽に…、んっ…──」
突然、喉の奥に締め付けられるような痛みが走り、かれんは胸元を押さえた。ひゅうひゅうと気管支が鳴る。
「かれんっ…!」
杏寿郎は背中を丸めて苦しむかれんの腕をとり、ゆっくりと抱きかかえた。杏寿郎の腕の中で苦しそうに浅い呼吸をするかれんは、涙目で何かを訴えるように杏寿郎を見つめた。
杏寿郎は周りを見渡し、半開きになった部屋のドアの方へ向かった。部屋に入り、枕元の吸入器が目に留まる。杏寿郎はかれんをベッドに下ろすと、吸入器をかれんの口元へ運んでくれた。かれんは目を瞑り、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。
しばらくしてかれんの呼吸が落ちついてきた。その間、杏寿郎はずっと背中をさすってくれていた。
「…ごめんね…、迷惑、かけちゃって…」
「案ずるな。もう苦しくはないか?」
「うん、大丈夫…。…杏寿郎くん、吸入器を使ったこと…あるの?」
「ああ、弟が小さい頃、喘息を患っていてな…。よく看病をしていた」
「そうだったんだ…。…あ、杏寿郎くん、花火大会…遅れちゃう」
「…花火大会は来年も行ける。今はかれんと一緒に居たい」
「…っ!」
「かれん、俺はかれんと花火を見たかった。…もし良ければ…来年の花火大会は、俺と一緒に行ってもらえないだろうか」
「…!!私と…?!」
「ああ」
「…そ、それは…同期の皆もって…こと…?」
「…いや、かれんと二人でだ。…出来れば、恋人として…一緒に行きたいと思っているのだが」
「!!」