第7章 どうか、届いて〈不死川実弥〉
かれんは立ち上がり、涙で濡れた目を擦りながらタクシー乗り場へ向かおうと、ホームから階段をとぼとぼと降りていた。
「…檜原?」
そう呼ばれて声のした方を見ると、そこにいたのは実弥だった。
「…え…あれ…?実弥さん…?どうしてここに…?電車に乗ったんじゃ…」
「……檜原の声が、聞こえた気ィしてよぉ…。急いで来ちまった」
(え…っ!)
階段の踊り場で、照れながら頭を掻く実弥の頬がほんのりと赤い。かれんの中で想いが弾けた。
「…実弥さん!私、実弥さんのことが大好きです…っ!ずっとずっと、大好きでした…っ、…こんな私ですが、実弥さんの傍にいたいんです、ずっとずっと、実弥さんと一緒に笑っていたいんです…っ!」
実弥へと溢れ出る想いに、かれんは緊張でどうにかなりそうだった。その様子を実弥は目を見開いて見ていた。
二人の間に沈黙が流れる。
「…なァ」
「…!は、はい!」
「…どうにかして、一緒に住むかァ」
「…え??」
「…まァ仕事に私情を持ち込むのは…アレだけどよォ、俺も檜原と、この先も一緒にいてェし」
「……え…??」
「…っだからァ、その…、」
「…?」
「……これからも、俺の傍に…いてくんねェか…?」
「…っ!」
実弥が恥ずかしそうに、でもしかとかれんを見つめる。かれんの心が溶けてしまいそうなほどのその熱い眼差しに、心臓が限界まで高鳴っていた。
「はい…!これからもずっと、一緒です!実弥さん…っ!」
かれんが実弥の胸に飛び込むと、実弥はぎゅっと抱きしめてくれた。そして何度も何度も、そのあたたかい掌でかれんの頭を撫でてくれた。
かれんの声が、想いが、実弥に届いた。誰もいない二人だけの駅で、かれんと実弥の想いはやさしく結ばれた。
・・・
かれんと実弥が遠距離恋愛を始めて半年程経った頃、本社にて新しい事業企画が発表された。全国の社員を対象に募集がかかり、かれんはそれに立候補をし見事採用が決定したのだ。かれんの本社への異動が正式決定し、かれんはその日も夜遅くまで引継ぎの資料作成のため、オフィスに一人残っていた。
(これをまとめたら、今日は帰ろうかな…)