第7章 どうか、届いて〈不死川実弥〉
時計の針はもうすでに22時半を指していた。明日の土曜日も出勤して続きをしようかかれんは悩む。
(…でも、もうすぐ実弥さんに会えるのかあ…!早く会いたいなあ…)
実弥との新しい生活がこの先に待っているのだと思うと、かれんは嬉しさで笑みが溢れた。
ふうと深呼吸をして、パソコンの画面を見つめていると、オフィスのドアが開く音が聞こえた。
(…こんな夜遅くに、誰…?)
かれんは座ったままデスクからドアの方を見ると、そこには実弥が立っていたのだ。かれんは思わず立ち上がり、実弥の方へと駆け寄る。
「…え…っ?実弥さん…?!どうし──…っ」
かれんが言いかけている途中で、実弥に抱きしめられその唇を塞がれる。
「…っ!…ちょっ…実弥さんっ!誰かに見られたら…っ」
それでも実弥はかれんの耳元で「ンなもん構わねぇ」と低く囁き、更にぎゅっと強く抱きしめてきた。かれんは恥ずかしさで真っ赤に頬を染め、実弥の胸をそっと押し返しながらその瞳を見上げた。
「…ど、どうしたの?連絡もなく突然…っ」
「…どっからか分かんねェけど、かれんの声が聞こえてよォ。…早く俺に会いてぇって。…違ぇか?」
「…っ!!…実弥さんに、こっそりと届いていたのね」
「?? “届いた”だァ?」
「うん、実弥さんにね、会いたいなって…思ってたの。だから嬉しい。来てくれてありがとう…!」
幸せそうに微笑むかれんの頬を、実弥は目を細めながら愛おしそうに撫でる。
「惚れた女に会いてぇのは当然だろォが」
「ふふっ、実弥さん、大好きっ!」
今の目の前にあること、この先起こることは決して当たり前ではなく、どんな出来事もきっと奇跡の連続なのだ。
あの晩、神様が繋いでくれた二人の想いが、今もかれんと実弥の心をやさしく包み込んでいた。
おしまい 𓂃◌𓈒𓐍