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檸檬香る、その恋に【鬼滅の刃 / 短編集】

第7章 どうか、届いて〈不死川実弥〉




実弥は最後に、ぽんとかれんの肩に手を乗せ、そのまま駅のホームに向かっていった。どんどん遠くなる実弥の背中を、かれんは目で追った。その姿はあっさりと終電に駆け込む人混みに紛れて見えなくなった。

(…ちゃんとお礼も言えたし、これで…大丈夫)

駅構内は終電に向けて人が慌ただしく行き交う。こんなにも大勢の人がいるのに、かれんは一人取り残されたような淋しさに胸が苦しくなった。かれんは大きく息を吐くと、くるりと向きを変えて、ホームに繋がるエスカレーターを上った。

・・・


『まもなく4番線に最終電車が参ります。ご乗車のお客様は─────…』


かれんの待つホームに駅員のアナウンスが響く。線路を目で追うと奥から電車がやってくるのが見えた。かれんはふと顔を上げて、奥の隣のホームを見ると、そこには実弥の後ろ姿があった。その時、何故か一瞬だけ、目の前の景色が止まったような錯覚に囚われた。



 実弥さんが 好き

 大好きだ














































「実弥さんっ!!!」



かれんの声と、ホームに入ってきた電車が重なった。目の前を電車が勢いよく横切り、風を巻き上げる。電車は停止に向けて、徐々にその速度を落としてゆく。

かれんは泣いていた。もうどうしようもないくらいに実弥が好きなのだと、その想いが止めどなく溢れてくる。寂しさが一気に押し寄せ、かれんはその場にしゃがみ込み、止まらない涙を両手で押さえた。どう足掻いても、この想いは実弥には届かない。いつも傍にいてくれた実弥が遠くに行ってしまう。もう今までのように、実弥に会うことはできないのだ。
この世に当たり前のことなど何一つないのだと、かれんは思い知った。



 もっと一緒に、居たかったのに

 実弥さんに 会いたいよ



ホームから最後のアナウンスが鳴りドアが静かに閉まると、電車はかれんを置いて、目の前をゆっくりと走り出した。
先程と打って変わって、静寂になったホームにはかれん以外もう誰も残っていなかった。ゆっくりと顔を上げて実弥がいたホームを見るが、車掌が線路を最終点検しているだけで、他には誰も残っていなかった。

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