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檸檬香る、その恋に【鬼滅の刃 / 短編集】

第7章 どうか、届いて〈不死川実弥〉




今までの実弥との思い出がかれんの脳裏を駆けてゆく。大変なことも沢山あったのに、思い出されるのはふと落とすように優しく微笑んでくれる実弥の笑顔だった。
ちっぽけな悩みを終電ぎりぎりまで、駅のホームで聞いてくれたこと。難しい商談の後に、いつも奢ってくれたラーメンの味。密かにお揃いにしてしまったボールペンを見て「ンで同じにすんだ」と照れながらも嬉しそうに気付いてくれたこと。
このまま陽だまりのような優しい日々がずっと続いていくのだと、かれんはそう思っていた。実弥と過ごす何気ない、穏やかな時間がかれんは大好きだった。でももう、その笑顔も、声も、見ることも聞くことも出来なくなってしまう。実弥が此処でない遠い場所に行ってしまう。かれんの胸は張り裂けるほどに締め付けられた。


 もっと、ずっと、
 一緒にいたかったのに


かれんの目からは涙が止めどなく溢れていた。

俯いたかれんの頭に、ふわりと実弥のあたたかい掌が乗った。実弥はかれんの頭をそっと撫でてくれた。

「…もう泣くな。目ェ腫れんぞォ」

「……ふぁい…すみません…。…私、実弥さんに教えていただいたこと、これからもちゃんと引き継いでいきます。…実弥さんとの思い出、絶対忘れません…っ」

「…大袈裟だなァ檜原は。一生の別れじゃねェんだから。…また会えんだろォ」

「…そ、そうですよねっ!すみません!めそめそして!」

かれんは涙がまだ残る瞳のまま、実弥ににっこりと笑いかけた。実弥のことを笑顔で送り出すことが、今の自分にできることだとかれんは思った。かれんの笑顔に実弥もどきりと胸を打たれる。

「さ!実弥さん!残りの仕事も片付けちゃいましょ!」

かれんはうっすら目元を潤ませたまま、休憩室を出ようと歩き出した。

「…ったく、檜原の笑顔は本当に…」

ぼそっと聞こえた実弥の声にかれんはくるっと振り向いた。

「…?実弥さん?何か…言いました?」

「…何でもねェよ。オラ、行くぞ」

実弥の拳がコツンとかれんの額に触れた。その部分からじんわりと熱がかれんの頬を伝う。もうどうしようもないくらいに実弥が好きだと、かれんは前を歩いていく実弥の背中を見つめ、その後を追っていった。


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