第5章 ロータリーの歌姫〈煉獄杏寿郎〉
(…!!かれん…!!)
杏寿郎は席を立ち、店の外に出た。
「もしもし!かれんか!?」
『夜遅くにごめんなさい。…寝てた?』
「いや!職場の皆と飲みに来ていた!かれん…変わりはないか?」
『皆さんといたのに、ごめんね。うん、お陰様で元気!こんな時間だから電話しようか迷ったんだけど…、先生にどうしても連絡したくて掛けちゃった』
かれんの声が杏寿郎を笑顔にさせていく。
「…そうか。良かった。かれんが元気で何よりだ」
『先生も元気そうで良かった!…あのね、先生に報告があって…』
「報告…?」
『前からずっとあたためていた曲をね、アレンジにアレンジを重ねて…、レコード会社に持ち込んでみたの。何個も断られちゃったけど、一つだけ採用してくれたレコード会社があって。…来月から正式に歌手としてデビューできることになったの!』
「…!!!そうか…!良かった…!!本当に良かった!!かれん、おめでとう!!夢が叶ったな!!」
『うん…っ!もうこれは煉獄先生のお陰だなって。先生がいなかったら今の自分にも出会えてなかったもん。…本当にありがとう、煉獄先生』
電話の奥で、かれんは泣いていた。その声に杏寿郎も思わず涙が込み上げてくる。
「…いや、かれん。それは君の実力であり、努力の賜物だ。かれんが掴み取った夢だ。…俺は信じていた、かれんが歌手になれることを。かれんの歌声はたくさんの人を幸せにする力がある」
『…いつもありがとう。こんな私を信じてくれてありがとうね。…杏寿郎さん』
「…っ!」
杏寿郎は初めてかれんに名前で呼ばれ、心がその声を求めていたように、すうっと溶けていくようだった。
『…あ、長々とごめんね。久しぶりに煉獄先生の声聞けて嬉しかった!明日もね、朝からレコーディングの打ち合わせなの』
「そうか、ならもう休んだ方がいい。連絡をありがとう。俺もかれんの声を聞けて嬉しかった。くれぐれも身体には気をつけて」
『うん!ありがとう。煉獄先生もね。…おやすみなさい』
「ああ、おやすみ、かれん」