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檸檬香る、その恋に【鬼滅の刃 / 短編集】

第5章 ロータリーの歌姫〈煉獄杏寿郎〉




・・・

22時半。
かれんの姿は一向に現れなかった。

(…何かあったのか…?)

初めてかれんの歌を此処で聴いた時はもうこの時間を疾うに過ぎていた。杏寿郎はかれんに何かあったのかと心配になった。かれんの自宅近くまでの道は知っている。かといってそこまで行くのは如何なものかと杏寿郎は頭を抱える。

(…でも家の前まで行く訳ではないしな。あの角までなら…)

杏寿郎はかれんと別れた道の角まで行くことにした。

・・・

(…確かこの角だったな…)

遅い時間ということもあり、道には誰もいなかった。

(…自分一人、舞い上がっていたのだろうか)

杏寿郎の足元を照らす電柱の蛍光灯の青白い光が、よりその気持ちを増長させる。杏寿郎は淋しくなる気持ちをぐっと堪えていた。

もう帰ろうと杏寿郎が駅の方に戻ろうとした時、かれんの声が聞こえてきた。その角の道沿いにある家の玄関からかれんが飛び出してきたのだ。しかしその腕を男性、かれんの父親がきつく掴んでいた。

「離して!!行かせて!!」

「全くお前は…っ!!何度言えば分かる!!夜中に出歩いて!!恥ずかしい!!」

「私は歌が好きなの!!歌いたいの!!」

「いい加減にしろ!!」


パンッ────


その父親はかれんの頬を叩いた。かれんは道に倒れ込んだ。

「…この恥知らず…っ!いつまでそんな夢みたいなことを言っている!?下らないことばかりして!!社会に出て働け!!」

「…っ。だって、夢だもの。歌うことは私の夢なの!!!」

「…この…っ!」

父親は、かれんの胸ぐらをぐっと掴んだ。


「止めてください!!」


杏寿郎は2人に駆け寄り、父親の手を止めた。

「…煉獄…先生…っ」

かれんは何故こんなところに杏寿郎がいるのかと混乱していた。その目にはじんわり涙が溜まっていた。

「…!?お前は誰だ!?関係ないだろう!!」

「…関係あります。俺の大切な人です」

「…っ!」

「…どいつもこいつも下らん!!二度と俺の前に現れるな!!」

父親は勢いよく玄関の扉を閉め、鍵を掛けた。


「…大丈夫か!?…頬を見せてみなさい」

「…大丈夫。大したことないから」

「いいから、ほら」

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