第5章 ロータリーの歌姫〈煉獄杏寿郎〉
・・・
杏寿郎とかれんが出会ってから、3日後。
その“あさって”の日がやってきた。
杏寿郎は朝から何処となく落ち着かず、そわそわしていた。またかれんの歌声が聴ける、それが杏寿郎の鼓動を早めていく。そんな杏寿郎の様子を職員室中の教師が皆見つめていた。もしろん杏寿郎はそんなことには気付いていない。
「何だあ?煉獄センセったら派手にニヤついてやがって」
「女かァ?」
「…煉獄にも春が来たのだな…」
同じ教師の宇髄天元、不死川実弥、冨岡義勇の三人に言い寄られ、杏寿郎はドキリとした。
「い、いや!そんなニヤついてなど!!」
「いんや〜こりゃ女だな。嘘はよくないぜ?」
天元が杏寿郎の肩に覆い被さるように腕を乗せてきた。
「まだ始まったばりの恋ってヤツか?いいねぇいいねぇ!派手に初々しくて小っ恥ずかしい感じが堪んねぇぜ!…ま!とりあえず報告待ってっからな!煉獄!」
「次の呑みのネタは決まったなァ」
「…楽しみにしているぞ、煉獄」
「〜〜〜…っ」
ズバリと言い当てられ、何も言えなくなる杏寿郎の顔はじんわりとその頬を染めていった。まだ一度しか会ったことのない女性なのに、杏寿郎はかれんの笑顔が忘れられず、思い出すたびにぎゅっと苦しく、胸が高まっていく。
(…これは…恋なのか…?)
ふとそんなことを思いながら、腕時計を見るともうすぐ5限が始まろうとしていた。杏寿郎は慌てて教材を持って職員室を出た。
・・・
杏寿郎は全ての授業を終え、残った業務を手際良く片付けていた。かれんに何時からあの場所にいるのかと聞くのを失念しており、杏寿郎は早めに駅につけるようにと、残りの仕事を片付けていた。
21時。
予想以上に手こずってしまい、杏寿郎は走って駅に向かい電車に飛び乗った。いつも素通りしていた駅に、こんなにも素敵な出会いがあったなんて。運命の巡り合わせのような、恋のときめに杏寿郎の胸の高まりは収まることを知らない。
駅に着き、駆け足でかれんがいたチューリップが咲く花壇へと向かう。しかしかれんの姿はまだなかった。
(…少し早かったか…)
杏寿郎はその近くのベンチに腰掛けて、かれんを待った。