第1章 真夜中のコンビニ〈煉獄杏寿郎〉
「あ、禰󠄀豆子ちゃん、私に気にせず、その書類終わったら帰って大丈夫だからね!」
「えっ、でも私もその書類手伝うよ!」
「ううん!そんなに時間掛からないから大丈夫!」
・・・
そう言ったものの…。
かれんは予想以上にその書類にてこずってしまい、禰󠄀豆子の帰宅後から一時間後に切り上げることができ、漸く帰路についていた。
(あの書類、めちゃくちゃ大変だったな…疲れた…)
病院から駅まで歩いていると、スマホが鳴った。
杏寿郎からだった。
『かれん!お疲れ様!今どのあたりだ?』
「杏寿郎も残業お疲れ様。今駅に向かってるところだよ」
『そうか!じゃあ最寄りの駅で待ち合わせよう!』
「うん!…ごめん、冷蔵庫に夕飯のストック何もないや…」
『では何か買って帰ろう!駅で探してみる!』
「うん!私も見てみるね。じゃあまた駅でね」
『ああ!かれん、気をつけて』
「うん、杏寿郎もね」
電話を切ると、かれんは電車に飛び乗った。
・・・
杏寿郎とは友人の紹介で知り合い、交際を始めた。付き合った当初から、仏のように優しく、穏やかで、紳士な杏寿郎に心を奪われていった。同い年なのに落ち着いていて、その包容力にいつもかれんは癒されていた。
半年ほど交際をして、かれんの誕生日に杏寿郎からプロポーズをしてもらい、二人は夫婦になった。
お互い仕事が好きで、かれんは結婚してもそのまま正社員で働いた。杏寿郎からは「俺が稼ぐからかれんは家にいてくれ」と何度か言われたが、家でじっとしていることは性に合わないと感じ、かれんは結婚しても今の病院で勤務を続けていたのだった。
杏寿郎は申し分ないほど、完璧な夫だった。週末は家事全般をしてくれて、杏寿郎が定時で帰宅すれば美味しい夕飯を用意してくれていた。そして夜はひたすらに熱く愛してくれる。子供はまだいなかったが、きっと神様が二人のタイミングを見て、授からせてくれると思っていた。かれんも杏寿郎も、お互いが笑って楽しく過ごせているだけで、十分に倖せだった。
・・・
(全然残ってない…)
乗り換えの駅の惣菜屋には閉店間近ということもあり、殆ど商品が残っていなかった。