第1章 真夜中のコンビニ〈煉獄杏寿郎〉
「今日も残業だねえ…」
そう言うのは同じ医事課の同期・竈門禰󠄀豆子。
かれんはこの病院で勤務して早数年。
毎月やって来る月末月初の残業に、いつまで経っても慣れることなどない。
「はあ、今日は何時まで掛かるかなあ」
途方も無い書類の山にかれんは溜息をつく。
「かれんちゃん、はい!コレあげる!」
「なあに?」
禰󠄀豆子がかれんに差し出してくれたのはチョコレート。彼女のデスクの中にはいつも様々な菓子が並んでいる。仕事中の甘いものは格別で、いつもよりもうんと美味しく感じる。
「わあ!ありがとう!」
「これ食べながら片付けちゃお!」
「うん!」
・・・
気付くと残業を開始してから、二時間半近くが経っていた。
「禰󠄀豆子ちゃん、もう終わりそう?」
「うん!これ確認したらもう終わる!」
「私も今の書類で終わりそう!それ見終わったら、今日はこのぐらいにしておこうか!」
「そうだね!」
…と言っていた矢先。
「かれんさ〜〜ん…」
声を掛けてきたのは、数ヶ月間に入社したばかりの後輩・甘露寺蜜璃だった。
「甘露寺さん、どうしたの?」
「これ…ここまで出来たんですけど…。ここから先が分からなくって…」
「どれどれ…」
蜜璃の書類を見ると、後半が空白だらけで全く埋まっていなかった。確かに入社したての彼女では少々難しい書類だった。
「…すみません、調べたんですけど、全然分からなくて…」
「これはまだ少し難しかったかもね。続きは私もらっとくから。もう遅いし、甘露寺さんもう今日は上がって?」
「ええっ、でも…すごく中途半端ですし…っ」
「いいからいいから!彼氏さん、待ってるんでしょ?お家で」
「はい…でも…っ」
「ほら!彼氏に心配かけちゃうから!」
「うぅ〜…、かれんさん、本当にありがとうございます…っ。
今度、書き方教えて頂いてもいいですか…?」
「もちろんよ!じゃあ、お疲れ様!」
「お疲れ様です…っ!」
蜜璃は何度も頭を下げて、事務室から出ていった。
「かれんちゃん、時間大丈夫…?旦那さんも心配してるんじゃ…」
禰󠄀豆子が心配そうにかれんを見る。
「あ…ううん!主人も今日残業みたいなの。さっき連絡来てて」
「そう…」