第4章 夏の贈りもの〈煉獄杏寿郎〉
杏寿郎がもし濡れて帰ってきても、すぐに温まれるようにかれんは風呂を用意していた。
(…遅いな…)
何かあったのかと心配になったかれんは杏寿郎に電話をしようとスマホを手に持った時、玄関が開く音がした。
「た、ただ今!今戻った…っ!」
「…!おかえり!今ちょうど連絡をしようとしてて…」
かれんはそう言いながら小走りで、玄関にいる杏寿郎の元に向かう。杏寿郎は先程の夕立でずぶ濡れだった。
「杏寿郎!大丈夫…?!風邪引いちゃう…っ」
「すまない!かれんに連絡をしようとしていたのだが…」
「…だが…?」
杏寿郎は自分の腕に目線を下ろした。かれんもその視線の先に目を向けると、杏寿郎の腕に抱えられた、ハンカチに包まれた何かがモゾッと動いた。
「…!?きょ、杏寿郎…!?何を抱えているの…!?」
かれんは恐る恐るハンカチで包まれたものを見つめた。
「…道の脇にあった段ボールの中で震えていて…。そのままにできず連れて帰ってきてしまった…」
「…?」
杏寿郎はハンカチをそっと取ると、そこには小麦色の毛並みをした小さな子犬がいたのだ。片耳が垂れていて、つぶらな瞳が愛らしい。まだ状況を飲み込めていないのか、怯えるように小刻みに震えていた。
「…っ!」
「かれんの許可も取らず、勝手に連れてきてしまって申し訳ない…。でも放っておけず…」
杏寿郎は下唇を噛みながら、悲しそうに子犬を見つめその背中を優しく撫でる。子犬もその手のひらに安心したように、杏寿郎を見上げていた。
かれんは実家でも犬を飼っていたので、その子犬を見た途端に涙が出てきた。独りでいてどれだけ心細かっただろうか。考えるだけで胸が締め付けられる思いだった。
「…独りで寂しかったでしょう。でももう大丈夫。今日からここがあなたのお家よ」
かれんは微笑みながら、子犬と目を合わせるように屈み、頭をそっと撫でた。子犬もかれんの手にすりすりと甘えていた。杏寿郎も嬉しそうに笑みを溢した。
「…かれん、突然だったのにすまない。でもかれんならきっと許してくれると思ってしまってな…」