第27章 二人の約束〈宇髄天元〉
かれんのその意図が分からず、思わず動揺してしまう天元。かれんは意地悪そうな顔をして、むすっと顔を膨らませた。
「…ネクタイ、ちゃんとしてきたら、…教えてあげる」
「…っ!」
色白のかれんの頬が、ほんのりと赤くなる。こんな近くでかれんを見たのはいつぶりだろうと、天元はまだ涙が残るその瞳を見つめた。
…昔もこんなふうに
よく泣いてたっけか
あんなに臆病だったかれんが、今は生徒会長として人前に出るようになっていて。
気付けば、自分の知らないかれんの一面ばかりが目にとまるようになっていた。
いつも、どんな時も一緒にいたのに。
その笑顔を、泣き顔を、一番最初に見るのは、自分であったのに。
かれんを振り向かせたくて、意固地になっていたのかもしれない。
天元はポケットに手を突っ込んだまま頭を倒すと、かれんの小さな肩に額をのせた。
「…へいへい。わーったよ」
渋々了承した天元に、かれんはちいさく笑った。
「ヨシ!天元くん!素直でよろしいっ!明日楽しみにしてるね!」
かれんのいつもの溌溂とした声に、天元はほっと胸を撫で下ろした。かれんの肩からゆっくり顔を上げれば、そこには幼い頃に戻ったのような、無邪気に笑うかれんがいた。
「…泣いたり、笑ったり、忙しねーな。かれんは」
「そう?でも、そんなふうにしたのは天元くんのせいだからねっ」
「はあ?!俺のせいかよ??…ったく、ホラ、生徒会、あんだろ」
「うん!行ってきます!天元くん、また明日ね」
そう言いながら、かれんは教室を飛び出していった。
あんな笑顔されちゃあなぁ…
天元は上がった広角を隠すように、茜色に染まった教室を後にした。
・・・
翌朝。
「・・・ウソ。天元、ネクタイしてんじゃん。どういう風の吹き回し???」
クラスメイトと楽しそうに話す天元を見て、梅は何度も目を瞬かせる。
「…めっちゃゆるゆるだけど。でも、してこないより、いっか」
「確かに。でもサ、あとはかれんが直してあげればいーんじゃないの〜?」
にやにや笑う梅に、かれんは照れ臭そうに視線をはぐらかす。
「え〜?そこまで面倒見きれないよ…っ」