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檸檬香る、その恋に【鬼滅の刃 / 短編集】

第3章 思い出すのは〈時透無一郎〉




「…俺の前だけですよ。そんな顔していいのは」

「…!!」

今まで見たこともない、何か必死に抑えているような無一郎の表情に、かれんの酔いはみるみるうちに冷めていくようだった。何が起こったのか分からず、かれんはただ無一郎を見つめていた。

(なんか…いつもの時透くんと全然ちがう…。…かっこいい…)

ぼんやりとそんなことを思っていると、蜜璃が冷やを持ってきてくれた。

「かれんさん!お冷持ってきました!少し酔い、冷めましたか?」

「あ…みつりちゃんっお冷ありがとう!な、なんか急に冷めてきたかも…!」

「なら良かったです!もう今日は飲んじゃダメですよ!!」

蜜璃からもぴしっと注意を受け、かれんはハーイとしょんぼりと小さく返事をした。

無一郎はただ黙って、冷やを飲むかれんを見つめていた。


・・・


無事に期間限定のポップアップストアは幕を閉じた。SNSでも話題になり、その人気ぶりは報道番組でも放送され、その影響で多くのデベロッパーからも声が掛かるようになり、クリエティブ事業は益々多忙を極めていた。

かれんも相変わらず駆け巡るように忙しかったが、充実した毎日だった。皆で一つの目標に向かって、何かを創り上げていく楽しさは何にも代えられない。


そして残業も、変わらずだった。

(今日は早めに帰ろう…)

オフィスの一階のコンビニでコーヒーを買い、デスクに戻ると無一郎が一人残っていた。もう他には誰もいなかった。

「あれ、時透くんも今日残業するの?」

「…はい、まあ」

「毎日残ってるんだし、たまには早めに帰りなね」

デスクに座る無一郎の肩をぽんと優しく叩いた。

「…かれんさん」

初めて無一郎に下の名前で呼ばれ、かれんは思わずどきっとした。

「…な、なに?」

「…これ、かれんさんに渡したくて」

「?」

無一郎が差し出したのは、見たことがある綺麗な包装紙で包まれたギフトボックス。かれんは、あっ!と声を上げる。

「時透くん、これって…!」

それはかれんがお気に入りのコスメブランドのものだった。無一郎からの突然のプレゼントに思わず笑みが溢れる。

「え…本当に貰ってもいいの…?」

「勿論です。かれんさんにはいつもお世話になっているので」

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