第3章 思い出すのは〈時透無一郎〉
「ありがとう…!すっごい嬉しい!…開けてみてもいい?」
「…あ、待って。僕が開けます」
「…? うん、ありがとう」
無一郎は丁寧にリボンと包装紙を解き始めた。
「…かれんさん、目を、閉じてもらえますか?」
「う、うん。…こう?」
「うん。そのまま、開けないでください」
「…?うん…」
かれんは無一郎に言われるがまま、瞳を閉じでじっとしていた。その理由が分からず、何だろうとどきどきしていると、ふわりとかれんの好きな香りが漂ってきた。
(…!時透くんの…、香りがする…っ!)
思わず目を開けると、水色の薄い紙に包まれた石鹸を、無一郎がかれんの顔の前で持っていた。
「…これ、時透くんの香り…!」
「うん。かれんさん、この香り好きって言ってたから」
「本当嬉しいわ!なんだか気を遣わせちゃってごめんね…。今度お礼をさせてね」
「いいですよ、そんな。喜んでもらえて良かったです」
「実はこの石鹸ね、前から使ってみたかったの。本当にありがとうね!」
かれんがにっこりと笑うと、無一郎もにこりと笑った。ふんわりと石鹸の香りが2人を包み込む。すると無一郎がすっとかれんの耳元に近づき、囁いた。
「…その香りがするたびに、俺のことを思い出すでしょ?」
「〜〜〜…っ!」
その言葉にかれんの脳内はショート寸前だった。驚きのあまり声が出ず、ばくばくと心臓の音が酷く鳴り響く。無一郎は悪戯っぽくも、やさしく微笑んでいた。
かれんは悔しそうに、照れながら口を紡ぐ。本当に年下なのかと疑ってしまうほどのその余裕さに、かれんはもうお手上げだった。
「…む、無一郎くん…その笑顔、反則だわ…」
「かれんさん、俺、かれんさんのこと好きですよ」
とびきりの笑顔になった無一郎に、かれんはもう完全に心を射抜かれていた。
「……えっ!!?…ちょ、っと、今、なんて!?」
「ふふ、ナイショです」
お揃いの香りが、二人の想いを繋いでいく。
おしまい 𓂃◌𓈒𓐍