第3章 思い出すのは〈時透無一郎〉
「蜜璃ちゃん、ありがとう…!。皆と一生懸命に創り出せたこのイベントは私の宝物です。皆がいてくれたから、私も頑張れました!いつもありがとうございます!皆に乾杯っ!!」
グラスの交わす音が響き、店内は一層盛り上がった。…が、かれんはアルコールにはめっぽう弱く、自分自身で控えていたものの、仕事の疲れと開放感からグラスの半分の量で一気に酔いが回ってしまっていた。
それに気付いた蜜璃が慌ててかれんに近づいてきた。
「かれんさん!?大丈夫ですか!?」
かれんの顔がほんのりと赤い。目元もとろんと眠たそうにしている。
「だーじょぶっ、みつりん!ぜーんぜんよってないっ!」
「かれんさん!それは酔っている人が言う台詞です!今お水もらってきます!」
蜜璃は駆け足でカウンターの店員に冷やを貰いにいった。
(うー…ねむたくなってきた…このままねれそう…)
かれんはうとうとしつつも、まだグラスに半分残るカクテルに手を伸ばした。だが、そのグラスは突然かれんの目の前から宙に浮いた。
「…あれ…??」
ぼんやりとグラスを目で追うと、無一郎がそのグラスを取り上げていたのだ。
「…檜原さん。飲み過ぎですよ」
「…ときとーくん…!…このぶしょにきてくれて、ほんっとーにありがとう。ときとうくんいなかったら…きっとここまでできなかったもん…」
「…何言ってるんですか。檜原さんが一番に頑張ってくれていたお陰です。お酒弱いのに…こんなに飲んで」
呆れるように見る無一郎だったが、その顔は僅かに微笑んでいるようだった。
「あっときとうくん!まだのんでるのにっ!カクテル、のこってるの!」
かれんは無一郎が持つグラスを取ろうと手を伸ばすも届かず、その手を無一郎にそっと握られた。
「…だーめ。家に帰れなくなりますよ」
無一郎はやさしく叱ると、かれんは幼い子どものようにむうっと口を尖らせた。
「…むいちろうくんの、いじわる」
「…っ」
いつものかれんからは想像がつかないとろけた表情に無一郎は心奪われる。無一郎の表情が突然変わった。少年のような面影は全くなく、大人びた艶やかなその表情に、かれんは息をするのも忘れていく。無一郎はそっとかれんに顔を近づけた。