第26章 おそろいの絆創膏〈煉獄杏寿郎〉
「君も残業か?」
「!!」
びっくりしてかれんが後ろを振り向くと、そこには私服姿の杏寿郎がいた。
「れ、煉獄先生…?!お、遅くまでお疲れ様です…っ!今からお帰りですか?」
「ああ!医局で書類の整理をしていたら、こんなに時間になってしまった!君も今から帰りだろう?…もし良ければ、一緒に夕食でもどうだろう?」
「…えっ?!夕食を!?わ、私とですか?!」
「うむ!」
杏寿郎からの突然の誘いに、かれんはパニック寸前だった。医師でもなければ看護師でもない、何故こんなちっぽけな事務員の自分に声が掛かるのだろうとかれんは不思議でならなかった。
「今日の手当の礼をしたくてな。…勿論、無理にとは言わない。ただ、君と、…檜原かれんさんと話しをしてみたくなった」
「…っ!」
杏寿郎の赤香の瞳に、かれんは釘付けになる。初めて名前を呼ばれ、その優しい声色に体の外まで聞こえそうなほどにばくばくと鼓動が響きそうだった。陽だまりのような眼差しにかれんは心惹かれてゆく。
「あ、ありがとうございます…!…で、では…、お夕飯、よ、よろしく、お願いします…っ!」
何故、今日会ったばかりの人にこんなにも心がときめいてしまうのだろうと、かれんはじっと杏寿郎の瞳を見つめてしまう。
「? 何か、顔に付いているか?」
「い、いえ!何もっ!!ち、因みに煉獄先生は、何がお好きなのですか?!」
かれんの胸の高まりが収まらない。一先ず夕飯の候補を絞るべく、好みを訊いてみたものの…。
「うむ!俺の好物はさつまいもだ!」
「さ、さつまいも?!」
きょとんとするかれんの大きな黒い瞳に見つめられ、杏寿郎の目尻がふわりと下がる。一目惚れとはまさにこのことだと、杏寿郎は思った。
さ!夕食だ!と楽しそうに張り切る杏寿郎の後ろを、かれんはぱたぱたと追いかけた。
・・・
後日、東病棟のナースステーションにて。
二人の看護師がカルテチェックをしていた時のこと。
「…ねえねえ、見た?煉獄先生のボールペン」
「ボールペン?ボールペンがどうかしたの?」
「なんかさぁ、さつまいものチャーム?みたいのが付いてるの持っててさあ…。絶っっっ対、彼女とかとおそろいってやつだよね?!」