第26章 おそろいの絆創膏〈煉獄杏寿郎〉
確かにかっこいいし…、
やさしそうな先生ね…
かれんの中で“ドクター”というと、少し強張った表情や無表情で何を考えているのか分からないといった印象が強かった。でも杏寿郎はそんなイメージとは全く異なり、大らかな優しい雰囲気が伝わってくるようだった。
「はい、檜原さん!今日のワクチンに来た患者さんのリストよ。今日は人数少ないかな。上から順番に呼んでいってね」
はい!とかれんは外来看護師から名簿を受け取る。
「…今日も泣いちゃう子、いますよね…」
「そうねえ、でもこればっかりはしょうがないものね…」
ワクチン接種後の待合室は、子ども達の泣き声がわんわんと響き渡る。こればかりは仕方のないことだが、かれんは子ども達の泣き顔にいつも心を痛めてしまうのだった。
時間になると、小児科の前の通路にある長椅子に数組の親子が集まってきた。かれんは名簿順に患者を呼び、診察室へと誘導する。子どもは今にも泣きそうな表情で診察室へと入ってゆき、接種を終えると大泣きしながら出てくるのだった。
そしてその日最後の患者をかれんは呼んだ。
「竈門さーん、竈門六太さーん」
はいと女性の声が聞こえ、小さな男の子が母親に手を引かれてやってきた。その男の子・六太は今にも泣き出しそうだったが、必死で涙を堪えていた。
「竈門六太さんですね。では診察室へどうぞ」
「六太、泣かなくてお利口さんね。すぐに終わるからね」
そう母親に言われるも、不安そうに診察室へと入っていく六太。その懸命な姿に、かれんはぐっと胸を打たれた。
そしてその数分後、診察室の扉が開くと、六太は泣かずに出てきたのだ。しかし痛みを堪えているのだろう。うるうると瞳が揺れていた。
「六太くんすごい!偉かったねえ!」
「六太少年!頑張ったな!流石だ!」
看護師と杏寿郎に診察室の外まで見送られながら褒めてもらったのも束の間、六太は安堵からかぽろぽろと大粒の涙を溢し始めてしまったのだ。
「六太くん、本当にたくさん頑張ったね、えらいね」
かれんは六太の前に屈むと、持っていたハンカチで涙を拭ってあげた。
「……ちゅうしゃ…、いた かった…っ」
小さな肩を震わせながら泣く六太に、杏寿郎も屈んで話しかけた。