第25章 天明のひとときを、いつか〈宇髄天元〉
「おい、しっかりしろ。今隠の奴らが来る。それまでくたばるんじゃねぇぞ」
かれんは返事をしようとしたが、喉が詰まり声が出ない。気管が閉められる苦しさに加え、意識も朦朧とし始めてきた。
拙いな…毒の回りが早い…っ
天元の顔が険しくなる。このままではかれんの命が危ない。
「おい!!目ぇ閉じんな!!死ぬんじゃねぇぞ!!」
天元の声が荒がる。
すると、数人の隠達が駆け足で二人の元へと到着した。
「天元様!大変お待たせ…」
「早く解毒薬を持って来い!!」
「はっはい!!」
隠は天元に抱えられたかれんの口に液状の薬を含ませるも、飲み込めずに口から溢れてしまう。かれんの呼吸はみるみるうちに浅くなり、顔色が青ざめてゆく。
くそ…っ!
天元はぎりっと奥歯を鳴らす。抱きかかえるかれんの体温も失われ始めていた。
「一旦こいつを抱えろ!俺が薬を飲ませる!」
隠は言われるがまま天元の腕の中のかれんを抱き寄せると、天元は薬を口に含んだ。
絶対死ぬな…っ
天元は右手でかれんの顎を支え口元を開くと、含んだ薬を直接かれんの口へと流し込んでゆく。
すると、こくりとかれんの喉が鳴った。
天元の口唇が、かれんの口元からゆっくりと離れた。
周りの隠達はその光景に目を見開き、呆然としてしまう。
「…よし、これでもう落ち着くだろ。また一時間後に薬を飲ませりゃ完全に毒は消える」
「は、はい…!宇髄様、ありがとうございました!!」
隠達はぺこぺこと天元に頭を下げた。
気付けばかれんの顔色は元に戻り、おだやかな呼吸を立てていた。
かれんはそのまま深い眠りについていったのだった。
***
甘くやわらかい温度が、唇に触れたような気がした。
これは一体何だろう
でも目を開けたら
なくなってしまいそう
鉛のように重たくなっていた体は、空にふわりと舞い上がる羽のように軽くなってゆく。
ずっと このままでいられたら いいのに
そう思いながら、かれんはゆっくりと目を開けた。
…あれ、ここは…?
見覚えのある天井が視界に広がる。
それは蝶屋敷の天井だった。