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檸檬香る、その恋に【鬼滅の刃 / 短編集】

第25章 天明のひとときを、いつか〈宇髄天元〉





「派手にこけてんなぁ?怪我はねぇか?」

「は、はい…っ、大丈夫、です…」



驚いた。
目の前にいたのは、元柱である宇髄天元だ。
鬼殺隊を引退した天元が、着流し姿で何故かそこに立っていたのだ。


 どうしてここに宇髄様が……?


かれんは状況の整理がつかず、思考回路が停止してしまった。


***


遡ること数時間前のこと。
朝日が昇るまであと一時間ほどだった。

かれんは単独任務に出ており、そこで一人の鬼に遭遇した。その鬼は般若のような恐ろしい形相で、腰は酷く曲がっていた。しかしその見た目にも拘らず、追いつかないほどの俊敏な動きにかれんは苦戦していたのだった。

「…お前よりも随分と永く生きているが、動きはわしの方が早いなァ…?足の傷も結構深いよなァ?それにいつまで耐えられるかな…?」

先刻、鬼の爪が食い込んだ右足首からの鮮血が隊服にじわじわと滲み出し、その毒のせいで体も思うように動かなくなっていた。鬼はその様子ににたりと微笑し、長い舌を垂らしながらかれんを喰らう瞬間を今か今かと待ち望んでいるようだった。


 どうしよう…っ
 目眩まで…っ


ぐらぐらと視界が揺れ始め、呼吸も荒くなっているのが分かった。日輪刀を握る握力も失われ始め、手足も思うように動かなくなっていた。


 この鬼に …私は殺される


そう思い、目を閉じた瞬間だった。



















「悪ぃけど、日輪刀借りるぜ?」


 …え…? …誰……??


聞き覚えのある声に薄ら目を開け、かれんは息を呑んだ。

目の前にいたのは、元柱・宇髄天元だったのだ。

天元はかれんの日輪刀を右手に持つと、瞬く間にその鬼の背後に回りその頚を掻き切った。鬼の頸はぼとりと地面に落ち、黒い塵を撒き散らしながら静かに消えていった。

天元はふぅと一息つくと、かれんの傍に駆け寄った。

「派手にこけてんなぁ?怪我はねぇか?」

「は、はい…っ、大丈夫、です…」

「…嘘言うな。ド派手に足首切られてんじゃねぇか。体、起こせるか?」

座り込むかれんは体の向きを変えようとしたが、毒のせいで力が入らず体勢を崩す。

「おっと」

天元は右腕で、倒れ込むかれんの体を器用に支えた。

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