第23章 彩る夜空を夢見て〈煉獄杏寿郎〉
「それは私もです、杏寿郎さん。…私、杏寿郎さんと一緒にいると、杏寿郎さんと夫婦になれて良かったなって思うんです…っ。いつもたくさんの幸せをありがとうございます、杏寿郎さん」
すると杏寿郎の手がかれんの頬に伸びた。突然のことに驚き、かれんは目を丸くする。杏寿郎はそのままかれんに近づくと、二人の口唇が重なった。そしてそれは名残惜しくも離れてゆき、二人はしずかに見つめ合った。
声には出さずとも伝わる想い。
頬に添えられた杏寿郎の手は、そっとかれんを離れた。
「…ねぇ、杏寿郎さん?」
「…ん?どうした?」
かれんが泣きそうに笑う。
それを見て、杏寿郎の緋色の瞳が揺れた。
「…笑って?」
かれんの頬を離れた杏寿郎の手を、かれんはそっと握った。
杏寿郎はかれんを見つめ、目を細めて笑った。
「かれんの手は…いつもあたたかいな」
「ふふっ、杏寿郎さんの手も、お日様みたいにあたたかいですよ。…どうかお気をつけて。ご武運を」
「うむ。…では、行ってくる」
二人の手がしずかに離れ、杏寿郎は微笑むと戸を開け家を後にした。
ドン
ドドーン…
外からは、花火の打ち上がる音が何度も響き渡る。かれんは縁側で、その音をひとり聞いていた。庭先からは夜の虫の音が、かれんに寄り添うように鳴き、夜風がその頬を撫でていく。
一人で過ごす夜には慣れたと思っていたが、今日は何故か一段と寂しく感じた。
月が綺麗だわ…っ
丸い満月が美しく輝く。
花火は見えなくとも、その月明かりはかれんの心を癒してくれた。
杏寿郎さんも
同じ月を見ているのかしら…
たとえ一緒に過ごせなくても、離れた場所から同じものを見て同じことを感じられる幸せ。それを切ないと思う人もいるかもしれない。でも、かれんはそれだけで充分なのだ。
でも
やっぱり
さびしい…っ
出来ることなら、杏寿郎の傍にずっといたい。杏寿郎と、もっともっと、沢山の時間を一緒に過ごしたい。
夫婦になってから、かれんが心の奥底に仕舞い込んでいた、杏寿郎へと伝えたい想い、でも言い出せない願い。
かれんの頬に一粒の涙が伝う。