第23章 彩る夜空を夢見て〈煉獄杏寿郎〉
かれんは杏寿郎に顔を見せないように自室を出ると、逃げるように台所へと向かった。かれんは着物に襷をかけると、今朝の残りの白米に梅干しを入れ、塩を塗し手際よく握っていく。
気付くと、白米を握る手に涙が落ちていた。かれんは涙を堪えようと必死に歯を食いしばるも、その涙は止まってはくれなかった。
分かっているつもりだった。鬼殺隊士の妻はなること、しかも柱を担う杏寿郎とは、普通の夫婦のような日常は過ごせないことを。
だからこそ日々の暮らしの中にある、側から見たら当たり前だと思われてしまうような出来事でも、かれんは心から幸せを感じていたのだ。それが杏寿郎となら、どれだけ喜ばしいことか。
かれんは大きく深呼吸をした。
台所の窓から見える空は、茜色に染まり始めていた。
…私ったら、いつまでめそめそしてるの!
杏寿郎さんを笑顔で見送らないと…!
少しの時間でも杏寿郎と過ごせたことに、かれんは嬉しさが込み上げる。目の前にある幸せは、決して当たり前ではないのだ。
かれんは出来上がった三つのおむすびを皿に並べると、杏寿郎の部屋へと運んだ。
「…かれん。寂しい思いをさせてしまい、本当にすまない」
出発前、かれんは玄関で杏寿郎を見送る。杏寿郎がいつも見せてくれる溌剌とした表情はどこにもなく、申し訳なさそうにかれんを見つめた。
「もう!杏寿郎さんったら!そんなに謝らないでください。今日、呉服屋さんにも小料理屋さんにも一緒に行けたので、とっても嬉しかったです!これからも楽しい時間はたくさんあります。…こうやって妻として、杏寿郎さんをお見送りできることも、私にとってとても幸せなことなんです。…どうかお気をつけて、杏寿郎さん」
いつものようににっこり笑うかれんに、杏寿郎は胸が苦しくなる。この笑顔の裏で、どれだけ悲しい思いをさせてしまっているのだろうかと、かれんの気持ちを考える度、杏寿郎は胸を痛めた。
「かれん。いつも傍にいてくれて、ありがとう。かれんには、いくら感謝を伝えても伝えきれない…」