第23章 彩る夜空を夢見て〈煉獄杏寿郎〉
「かれん、何処か行きたいところはあるか?」
「…!」
居間で朝餉をとっていると、杏寿郎が嬉しそうにかれんに尋ねた。
「…行きたい、ところ…」
いつも杏寿郎が留守の間、色々と巡りたい場所が思い浮かぶのに、いざそう言われるとかれんは迷ってしまった。
「かれんの食べたいものがあれば、其処に行こう!どんな事でも構わない!何でも言ってくれ!」
「は、はい!ありがとうございます!…え、えと…。…す、すみません…、すぐに答えられずに…っ」
かれんは顎に手をつき、思い巡らした。
街に新しくできた甘味処や二人の趣味である寺巡り。お気に入りの書物が並ぶ千寿郎ともよく通っている書店。
夏に向けて、新しい浴衣を新調しようと杏寿郎と話していたことも思い浮かぶ。
嬉しさで心躍るがあまり、中々一つに決めることができないかれん。
必死に考えるかれんのその姿に、杏寿郎の目尻が下がる。
「…すまない、急かしてしまったな。俺はこの後、報告書を仕上げてくるから、決まったら教えて欲しい」
「はい…!ありがとうございます…!」
杏寿郎は任務で疲れがあるだろうにもかかわらず、そんな様子を一切見せなかった。もう三杯目となるさつまいもご飯を美味しそうに頬張っていた。
かれんは、杏寿郎の姿を目の前で見ることができていることだけでも、胸が張り裂けそうなほど充分に幸せだった。
「───…あ、花火…」
「ん?花火?」
かれんはふと、先日千寿郎と話していたことを思い出し、棚に置かれた暦を見つめた。
「先日、千寿郎くんがいらしてくださった時、毎年夏になるとこの近くで花火が打ち上がると聞いて…!確か…、そうです!明日の夜と仰っていました!」
「ああ!そうか!もうそんな時期なのだな!俺も幼い頃、両親と一緒に何度か見たことがある!」
「そうだったのですね!とても素晴らしいと聞いて…、ぜひ一度見てみたいです…!」
「うむ!では明日は、花火を見に行こう!それと日中は、先日話しをしていたかれんの浴衣を仕立てに、呉服店に行くのはどうだろうか!」
「…!」
杏寿郎はどんなに多忙であっても、かれんとの約束を決して忘れたことはない。その言葉に、かれんの胸がじんわりとあたたまった。