第23章 彩る夜空を夢見て〈煉獄杏寿郎〉
台所に置いてある籠の中には、さつまいもが溢れんばかりに入っていた。生家を離れても、千寿郎の心遣いに杏寿郎は笑みが溢れた。
「かれん。今日は報告書を作らなければならないのだが、明日は非番を貰ってな。何処か、かれんの好きなところに出かけよう」
「…!杏寿郎さんのお気持ちは大変嬉しいのですが
、連日任務が続いていましたし、明日はゆっくりお休みになれた方が…」
「なに!今日休めば疲れは取れる!問題ない!」
「で、ですが…、杏寿…───っ!」
尚も杏寿郎の提案を拒もうとするかれんの口唇を、とんっと杏寿郎の指先がそれを止めた。
「…俺の所為でかれんに寂しい思いばかりさせてしまい、本当にすまない。それなのに…いつも笑顔で出迎えてくれるかれんには感謝してもしきれない。…かれん、君と一緒に居られるならば、どんなことでも構わない。明日はどうか俺と、一緒に過ごしては貰えないだろうか」
「…っ!」
懸命に懇願する杏寿郎の瞳が、かれんを捉える。
かれんは、込み上げる嬉しさで視界が潤んだ。
「…はい…っ!杏寿郎さん、ありがとうございます。私…とっても嬉しいです。明日は杏寿郎さんと、一緒に過ごします…っ!」
心の底から幸せそうに微笑むかれんの笑顔は、杏寿郎の心をあかるく灯す。
杏寿郎はふわりと、かれんを抱きしめた。
「かれん、いつも側にいてくれて…ありがとう」
杏寿郎の声が、ちいさく揺れているようにかれんは聞こえた。杏寿郎の陽のようにあたたく、やわらかい香り。
そして杏寿郎もまた、愛おしく想う妻のあたたかさに胸が熱くなる。
「杏寿郎さん…?お礼を言うは私の方なのです。杏寿郎さんの妻になれたこと、今こうやって杏寿郎さんと一緒にいれることが、私の一番の…幸せなのです…っ」
目の前に、今この腕の中に心から愛するひとがいる幸せと歓び。このまま時が止まればいいのにと、二人は思う。
杏寿郎はかれんの顔を覗き込み、零れ落ちそうになる涙をそっと指で拭った。
「かれんと夫婦(めおと)になれて、俺は幸せだ。…かれん、俺は誰よりも…君を想う」
二人はそれ以上、聲にならない歓びを噛み締め、杏寿郎はかれんにやさしい口づけを落とした。
・・・