第23章 彩る夜空を夢見て〈煉獄杏寿郎〉
杏寿郎は顔を上げて、微笑むかれんを見つめた。薄茶色の瞳がちいさく揺れていた。杏寿郎の心がふわりと癒されていく。
「あっ!今日は杏寿郎さんのお好きなさつまいもご飯をご用意していますよ!湯浴みから戻られたら、居間にお持ちいたしますね」
杏寿郎は目を細め、かれんの頬を愛おしそうにそっとつつむ。このあたたかい掌が大好きだと、かれんはそのぬくもりに目を閉じた。そしてかれんの唇に、杏寿郎の口づけが降る。
「…かれん、いつもありがとう」
かれんが目を開けると幸せそうに微笑む夫の笑顔がそこにあった。心臓がばくばくと鳴り響く。もう何度も見ているこの笑みは、いつもかれんの心を甘く締めつけた。
では湯浴みを済ませてくると、杏寿郎はかれんの耳元で囁き、脱衣所へと向かっていった。
かれんは暫くその場に放心したまま、立ちつくしてしまった。
…はっ!!
杏寿郎さんの朝餉の支度をしなければっ…!
かれんはぱたぱたと小走りで台所へと戻っていった。
杏寿郎が脱衣所に入ると、既に棚には着替えと手拭いが置かれていた。湯船から立ち上る湯気とともに、丁子の香りがふんわりと香る。用意周到且つ細やかな妻の気遣いに、杏寿郎は目を細めた。
・・・
かれんは杏寿郎の帰還に安堵しつつ、手際よく朝餉の用意を進めていた。
そしてふと蘇る杏寿郎の笑顔。
撫でられた頬と唇がじんわりと熱い。
かれんは自身の口元に、そっと指先を当てた。
杏寿郎さんの笑顔には
敵わないわ…
杏寿郎が留守の間、会えない寂しさに対して目を背けてはいたものの、やはりその姿を見ると、会える日をこんなにも心待ちにいたのだと、かれんは思った。
「かれん!着替えをありがとう!」
「っひゃ!!」
湯浴みを済ませた杏寿郎が突然台所に現れ、かれんは思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「すまない!驚かせたな!」
「い、いえ!大丈夫ですよ!お湯加減は…熱くなかったですか?」
「ああ!とても良い湯だった!
…さつまいものいい香りがするな…!」
「このさつまいも、千寿郎くんが持ってきてくれて…!とっても立派なんですよっ!」
「ほう!これは見事だな!」