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檸檬香る、その恋に【鬼滅の刃 / 短編集】

第23章 彩る夜空を夢見て〈煉獄杏寿郎〉




・・・


 ガラッ────…


玄関の方から、戸の開く音が響いた。


(あっ、杏寿郎さん…!)


かれんは手を止めると、小走りで玄関へと向かった。


「杏寿郎さん!」

「! かれん…!」


草履を脱ぎ、立ち上がった杏寿郎とかれんは目が合った。

「杏寿郎さん、お帰りなさい。ご無事で…何よりです…っ」

にっこり笑うかれんの笑みに、杏寿郎の疲れは、瞬く間に消えていくようだった。

「かれん、只今。出迎えありがとう。…いつもよりも任務が長引いてしまい、すまなかった。家のことも任せっきりにしてしまったな…」

「杏寿郎さん、何もお気になさらないでください。千寿郎くんも会いに来てくれて、たくさんお話もできて…!あっ、湯浴みの用意ができましたので、先に…っ、…────っ!」

気がつくと、かれんは杏寿郎の腕の中にいた。

杏寿郎は、求めていたぬくもりを目一杯に抱きしめる。かれんのやさしい香りが、二人をそっとつつみこんだ。

「きょ、杏寿郎さん…っ?!」

呼びかけても、杏寿郎はかれんの肩に顔を埋めたまま、ただ抱きしめ続けた。


「すまない、もう少しだけ…このままでさせてくれないか…?」


かれんは杏寿郎の背中にそっと手を伸ばし摩った。
杏寿郎から伝わるあたたかい体温。かれんはしずかに目を閉じた。

杏寿郎はどんなに辛いことがあろうとも、他の柱の同志にも、妻であるかれんにも、決して弱音を吐いたことがなかった。日々多忙を極める中でも、己の鍛錬も欠かさず、その熱い闘志を、心を燃やし続けていた。そして、容赦なく猛威を振るう鬼に刃を向け、同時に多くの人々と隊士の命を守る責任の重圧に、この体一つで日々立ち向かっているのだ。


「…杏寿郎さん。私はこれからもずっと…杏寿郎さんのお傍におります」


そう一言、かれんは囁くと、杏寿郎はさらにぎゅっと腕に力を込めた。

「…ありがとう。…かれんにはいつも寂しい想いばかりさせているな…、そんな自分が不甲斐ない…。一人で大事なかったか…?」

「大丈夫ですよ。こうやって杏寿郎さんが無事に、お戻りになってくださったのですから。こんなに嬉しいことはありません…!」

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