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檸檬香る、その恋に【鬼滅の刃 / 短編集】

第22章 紡がれた約束〈煉獄桃寿郎〉




  心を

  燃やせ…


桃寿郎の脳裏を、何度もその言葉が駆け巡った。

語りかけてくるようなやさしい声色。思い起こす度に鮮明になるその声は、桃寿郎の総身へと響き渡るようだった。


 この声と 先程教室で見かけた女性…

 何か 関係があるのだろうか…


桃寿郎は、すっかり冷たくなった春の空気を吸い込む。鼻腔を通る、芽吹き始めたばかりの草木の蒼い香り。空には一番星がちいさく瞬いていた。


「 心を 燃やせ。
  己に 立ち向かえ────…」


心に刻み込むように、桃寿郎は呟く。
初めて聴くその言葉に、不思議と勇気が湧いてくるようだった。

桃寿郎は拳をぐっと握りしめると、家に向かって駆け出した。

・・・


大会当日の朝────


星灯と桃寿郎はスマホからメッセージを送り合った。大好きなひとからの応援の言葉は、何よりの励みであり、心の支えだ。二人はその文面に笑みが溢れた。


しかし、本番には魔物が潜む。会場全体が醸し出す圧迫感に、星灯は圧倒され掛けていた。それは舞台袖へと進むに連れて、波のように押し寄せてくる。聴こえてくる演奏者の音は、星灯の胸を更に締め付けた。星灯の眼前に広がる、目が眩むほどの照明が降り注ぐ大きな舞台。星灯の心臓は痛いくらいに犇き、全身の感覚が麻痺してくるようだった。星灯は緊張で震え冷たくなる指先を、何度も何度も吐息で温めた。



 『星灯なら、絶対に大丈夫だ』



桃寿郎の声が木霊した。



 大丈夫

 大丈夫


 私は 私だけの 音楽を

 思いきり 楽しめばいい



では次の方と、係員に誘導され、星灯は一人舞台へとその足を踏み出した。


星灯が奏でるフルートの澄みきった音色は、会場にいた全ての人を魅了した。
審査員も満場一致で、高評価の成績を収めたのだった。


一方、桃寿郎の試合相手は、剣道界では最強校といわれる高校の生徒だった。桃寿郎よりも一回り大きい体格を持つその生徒の竹刀捌きは、目で追えないほどの速さだった。
しかし桃寿郎は、何も恐れてはいなかった。どんな時も戦い挑む相手は、自分自身だ。自分に打ち勝つ。ただそれだけだった。
桃寿郎は、柄をいつもよりも強く握りしめ、そして唱えた。



 心を 燃やせ

 己を見つめ 立ち向かえ



結果、星灯は最優秀賞に輝き、桃寿郎は優勝を果たしたのだった。

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