第22章 紡がれた約束〈煉獄桃寿郎〉
「ふふっ、ちょっと早いけど…桃ちゃんにおまじない!」
照れ笑う星灯に、桃寿郎の胸がきゅっと跳ねた。
すると桃寿郎は、両手で星灯の手を包み、目を瞑った。
「“星灯の…奏でる美しい音色が 沢山の人の心へと 届きますように───…”」
「…!!」
桃寿郎からふんわりと伝わる体温。あたたかい陽の光のように優しく包み込んでくれる桃寿郎の手は、星灯の心も一緒に抱きしめてくれているようだった。
ぱっと桃寿郎の目が開き、星灯を見つめた。
星灯はその緋色の瞳に、はっと息を呑む。
「星灯。星灯なら、絶対に大丈夫だ」
桃寿郎は落とすように、星灯にふわりと微笑んでくれた。
今まで何度も見てきたその微笑みに、星灯の心がぎゅっと締め付けられた。込み上げてくる愛おしさに、目頭が熱くなる。
「桃ちゃん、ありがとう。とっても嬉しい…!私、一生懸命、頑張るね!」
にっこり笑う星灯の頬が赤く染まる。
星灯が好きだ、と桃寿郎は思った。数え切れないほど、そう思ってきたこの想いは、きっとこの先も変わることなどないと、桃寿郎は強く胸に誓った。
「…では、星灯、また明日。お休み」
「うん、また明日ね、桃ちゃん。おやすみなさい」
桃寿郎は家の玄関に向かう星灯の背中を見つめた。
星灯はくるりと振り返り、桃寿郎にちいさく手を振った。
桃寿郎も手を振り返すと、星灯が家に入るのを見届けた。
明日も会えると分かっているのに、どうしてこんなにも儚く、苦しくなるのだろうと、桃寿郎の胸がちくりと傷んだ。
世界中にいる全ての恋人達が皆、この気持ちを抱えているのかと、桃寿郎は夕闇に染まる空を見上げた。
恋は甘くも 切なく
あたたかい不思議な感情だな…
桃寿郎は、鼻を掠める夕餉の香りにはっと我に返ると、星灯が握ってくれた掌を眺めた。
如何なる時も
挑む相手は 自分自身だ
俺は 俺のすべきことを
『 心を 燃やせ
己を見つめ 立ち向かえ─── 』
「…───!?」
ふと、何処からか聴こえた声に、桃寿郎は辺りを見回した。
でもそこには、誰一人いなかった。
一体、誰だ…!?
すると、びゅうっと勢いよく風が舞った。
まだ肌寒さが残る春風が桃寿郎の頬を掠めた。