第22章 紡がれた約束〈煉獄桃寿郎〉
「ふふっ、私も桃ちゃんの顔見たら、元気が出たわ!これからね、音楽の先生に見てもらうところだったの。ちょっと緊張してたけど…何だか上手くできそうな気がするっ!」
「そうか!それは良かった!星灯のそのままの音で奏でれば、きっとその想いは必ず伝わる!」
「うん…!桃ちゃん、ありがとう!じゃあ私、音楽室に行ってくるね!また、校門でね!」
桃寿郎はうんと笑顔で頷くと、星灯は譜面とフルートを持って、教室を後にした。
しんと静まり返った教室を、桃寿郎はぐるりと見渡す。
…──あの女性と 聴こえた声は一体…
聞こえた女性の声が、桃寿郎の脳裏を木霊した。
桃寿郎は教室を出ると、再び体育館へと向かっていった。
・・・
茜色も深くなり、校門には部活を終えた生徒達が群がっていた。
星灯はどこだ…?
桃寿郎は辺りを見回し、星灯の姿を探した。
「桃ちゃん!」
後ろから星灯の声が聞こえ、桃寿郎はくるりと振り返る。星灯が息を切らしながら駆けてきた。
「ご、ごめんね…っ!待っちゃった??」
「いや!俺も今来たところだ!」
「そ、そっか、よかった…!先生とお話してたらギリギリになっちゃって…」
何処となく、星灯に元気がないように見えた。
「星灯!久しぶりに“日の丸屋(ひのまるや)”に、寄って行かないか?」
「…! うん!行きたい!夜ご飯前だけど、一個ならいいよね!」
「ああ!今ならきっと出来立てだぞ!」
「うんっ!」
二人が向かったのは、地元の商店街にある精肉店の“日の丸屋”。年配の夫婦が営むその精肉店には、この時間になると熱々の出来立てコロッケが並ぶのだった。
桃寿郎と星灯はここのコロッケが大好きだった。
「おばさん!こんばんは!」
桃寿郎の声が精肉店の店内に元気よく響き渡る。
「あらあら、桃ちゃん、星灯ちゃん!久しぶりねぇ!学校帰り?見ないうちに随分大きくなったわねぇ!身体も伸びて!あ!アレでしょ?コロッケでしょ?今ちょうど揚げてるから、そこに座って待ってて?」
店主の奥さんは、隙を与えないほどの早口で二人に話し掛けた。恰幅のいい彼女は年中半袖のTシャツを着ており、青いエプロンがトレードマークだった。二人が店の外のベンチに腰を下ろすとすぐに、揚げ上がったばかりのコロッケがやってきた。