第22章 紡がれた約束〈煉獄桃寿郎〉
春に降りそそぐ麗かな光のように、あたたかくやわらかな音色。
まるで、桃寿郎を違う世界へと導いてくれるようだった。
星灯はひとフレーズを吹き終わると、フルートを胸元に下ろした。普段見せない凛とした星灯の表情に、桃寿郎は目を奪われた。
星灯はうーんと顔を顰め鉛筆を持つと、再び譜面に書き込み始めた。
トントン───…
桃寿郎は、気付くと教室のドアをノックしていた。
それに気付いた星灯は、くるっとドアの方に振り返り満面の笑み桃寿郎を向けた。
「桃ちゃんっ!!」
「…星灯! 突然すまな…っ」
『杏寿郎さん…!』
───…?!
突然、女性の声が桃寿郎の耳元に響いた。
キョウ…ジュロウ…??!
咄嗟にその名について思い巡らすも、心当たりはない。でも、自分と似ている名に何かが引っ掛かる。そして女性の声は、星灯にとても似ていた。どこか懐かしく、惹きつけられるようだった。そして何故か、目頭が熱い。切なさと恋しさが一遍に込み上げ、桃寿郎は身動きが取れなくなってしまった。
「…桃ちゃん…?どうかした…??」
気が付くと、目の前には星灯がいた。心配そうに桃寿郎を覗く。
「…い、いや何も…、
…!!!」
すると星灯の傍らに、杏色の着物を着た女性が立っていたのだ。
…!?
誰だ…っ?!
桃寿郎の目が見開かれ、その顔をはっきりと捉えようとした時には、既に女性の姿は跡形もなく消えていた。桃寿郎は教室全体を見渡すが、そこには自分と星灯の2人しかいなかった。
「も、桃ちゃん…??本当に大丈夫…??…っもしかして、具合が悪いんじゃ…?!」
星灯は、今にも泣きそうな声を上げる。
「い、いや!何でもない!!星灯のフルートの音色が聴こえて、思わずここまで来てしまったんだ!突然押し掛けてすまなかった…!」
星灯はまだ心配そうに、桃寿郎を見つめた。
「…本当に、大丈夫…?無理してない??」
「ああ!少し練習をしすぎたのやもしれん!星灯の顔を見たら元気になった!もう大丈夫だ!」
にっこり笑う桃寿郎に、星灯もほっと胸を撫で下ろした。