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檸檬香る、その恋に【鬼滅の刃 / 短編集】

第20章 たなびく風に想いをのせて〈謝花妓夫太郎 / 謝花梅〉






 ・・・あれ、駅に向かう道じゃない…



見たことのない景色に、かれんはキョロキョロと辺りを見回した。目の前の信号機が赤に変わり、かれんは妓夫太郎に後ろから声を掛けた。

「…あ、あの、妓夫太郎さん、この道、どこですか…?」

「あ?…行きゃあ分かる」

「…え、駅じゃ、ないんですか!?」

すると信号が青に変わり、妓夫太郎は視線だけをかれんに向け、何かを企むように口角を上げた。妓夫太郎はその問いには答えず、再びバイクを走らせた。


 ええっ、どこに向かってるの…!?


未だかつて感じたことのない気持ちにかれんは動揺するも、未知の世界に連れ出してくれる妓夫太郎にさらに胸のときめきが増していくばかりだった。


・・・


「…着いたぜぇ」

「!」


そこは小さな駄菓子屋の前だった。年季が入った木造の建物を見て、かれんはどこか懐かしさを感じた。
「…顎」と妓夫太郎はぼそりとかれんに呟くと、ヘルメットのストラップに手を伸ばし外してくれた。


「…じいさん、いるかぁ?」

そう言いながら駄菓子屋に入る妓夫太郎の後にかれんは続く。店内には様々な駄菓子が所狭しと並び、その懐かしさからかれんはわくわくと心弾ませていた。

「ああ、妓夫太郎くん!久しぶりだね。…あれ、梅ちゃんは一緒じゃないのかい?」

「アイツ、サボり。…じいさん、いつもの2つなぁ」

「はいよ」

妓夫太郎はそう言うと、店の外にあるベンチに腰を下ろした。
かれんも少し間隔を空けて隣に座った。

「…ここって…」

妓夫太郎の顔を覗くように、かれんは話しかけた。

「…時々、ここのが無性に食いたくなるんだよなァ…」

そう言いながら、妓夫太郎は膝に頬杖をつく。
すると店主がアイスクリームを持ってきてくれた。

「はい、お待ちどうさん。お嬢さんの方には、おまけ付き」

かれんのアイスクリームにはシロップに漬けた真っ赤なさくらんぼが乗っていた。

「ありがとうございます…!」

「アイスはじいさんの作るのが一番うめぇかんなぁ」

妓夫太郎くん言うねぇ!と店主は嬉しそうに笑いながら、中に戻っていった。

かれんは、いただきます!と一口頬張る。程よい甘さと牛乳の香りが口いっぱいに広がった。

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