第20章 たなびく風に想いをのせて〈謝花妓夫太郎 / 謝花梅〉
二人の間に沈黙が流れる。
目の前にいるのは
妓夫太郎さんだ
嬉しい
嬉しいのに
どうしよう
何を 話したら…っ
かれんは瞳を右往左往させ、必死に会話の続きを考える。
「…っあ、あの!今日梅さんは、ご一緒ではないのですか!?」
ぐいっと身を乗り出して話しかけるかれんに、妓夫太郎は目を丸くした。
「あー…、アイツ、今日はサボって家にいる。…お前、駅何処だぁ?」
「え、駅? この先です!」
「…ンなもん分かってる。地元どこって聞いてんだ」
「! えと…、上りで4つ先のところです…」
「…ンじゃ、コレ乗ってけ」
「!!??! え!?いいです!いいです!!電車で帰れますから!!」
「…バイクのが早ぇだろぉが」
「えっでも!本当に…っ」
「…ごちゃごちゃ言ってねぇでさっさと乗れ」
そう言うと妓夫太郎は後部の座席に括り付けていたヘルメットをかれんにぽすっと被せた。妓夫太郎は覗き込むように、顎のストラップもパチンと閉めてくれた。
「…苦しくねぇ?」
「だっ大丈夫、です!」
「…バイク、乗ったことあるかぁ?」
「…ない…です」
「…」
妓夫太郎はかれんの鞄の持ち手を腕に通して背負うように指示し、人差し指で後部座席を指すとシートに跨がるよう促した。
「の、乗りますっ…!」
かれんはそうっとシートに跨り、どこに捕まろうかと迷っていると、
「…手、離すんじゃねぇぞ」
と、妓夫太郎がかれんの腕を引っ張り、自分の腹の前で交差させた。
急に妓夫太郎との距離が縮まり、眼前に逞しい背中が迫る。触れてしまいそうになるかれんの鼻先を微かにせっけんの香りが掠めた。途端にかれんの心臓がばくばくと跳ね上がる。
すると突然、ブロンッと音を立てた妓夫太郎のバイクが動き出す。
ひゃっ!と小さく悲鳴を上げたかれんの声に、妓夫太郎はちらりと笑みを落とし、バイクは風を切りながら車道を走り出した。
・・・
妓夫太郎の腹の前で交差した手に、じわじわと汗が滲む。
異性に抱きしめられたこともなければ、抱きしめたこともないかれん。初めての感触に、今起こっている出来事が夢なのではないかと錯覚してしまう。
ふと、かれんは周りの風景を見た。