第20章 たなびく風に想いをのせて〈謝花妓夫太郎 / 謝花梅〉
男子生徒の呼びかけに皆が一斉に着席した。
“冨セン”こと、体育教師・冨岡義勇が教室に無表情のまま入ってきた。それと同時にチャイムが鳴る。義勇の指導の元、本鈴の前には着席を徹底させているのだ。号令がかかり、挨拶を済ませると義勇がパラパラと教本を開いた。今日の体育は座学だった。
「授業を始める。教科書の37ページを開け」
皆が静かに教科書のページを捲った。
窓際に座るかれんの髪が、ふわりと風に靡く。
かれんは窓から見える校庭をぼんやり眺めた。
妓夫太郎さんって いうんだ…
先程の妓夫太郎のことがぐるぐるとかれんの頭を巡っていた。
・・・
それから数日後の事。
クラスメイト達はかれんに対して嫌がらせをしてくることは無くなった。かれんを攻撃すれば、自分達にも何か降り掛かってくるのではと怯えていた。寧ろ、挨拶や話しかけてくれる生徒が増えたほどだった。
その日の放課後。
かれんは帰宅の為、一人駅に向かっていた。
梅と妓夫太郎に出会って以来、二人を校内で見ることはなかった。時折授業をサボって遊びに繰り出していると、クラスメイトがこそこそ話しているのを聞いてしまった。
自分とは全く異なる世界に住んでいるのだと、かれんは妓夫太郎が遠い存在に思えた。
…でも どうしてだろう
妓夫太郎さんが
忘れられない
この気持ちが何なのか、かれんはよく分からなかった。
あの日、手伝ってくれただけなのに、殆ど会話もしていないのに。
妓夫太郎を想うと、かれんの胸がきゅっと締め付けられた。
すると、かれんの背後からバイク音が近づいてきた。
かれんはただそのまま、とぼとぼと歩道を歩く。
「…檜原かれん…?」
「っ!??!」
突然背後から話しかけられ、かれんはびくっと肩を震わせる。聞き覚えのある声に、はっと後ろを振り返った。
そこにいたのは、アメリカンのバイクに乗った妓夫太郎だった。
「…!! 妓夫太郎…さん…!?」
まさか妓夫太郎に会えるとは思ってもおらず、かれんは不思議と込み上げてくる嬉しさと緊張から、思うように口が回らない。
「…一人かァ?」
「えっ、はい!そ、そうです!」
「…」