第20章 たなびく風に想いをのせて〈謝花妓夫太郎 / 謝花梅〉
・・・
ちょっと怖かったけど
優しい人達だったな…
…あ、
名前を聞くの忘れちゃった…
かれんは男子生徒の名前を聞くのをすっかり失念していた。辛うじて、妹の“梅”という名前は覚えていた。
…あの男の人、
見たことなかったから上の学年かな…
かれんはその男子生徒のことが、頭から離れなくなっていた。
かれんが教室に着くと、先程のクラスメイト達が冷ややかな目線を向けてきた。
「檜原さん、遅くない??あと5分もないけど、残りのプリントも持って来れんの??」
「…え、えと…っ」
「ねえ、言ったよね??ミスったらどうな…」
「オイ、…檜原かれんってのは、ここのクラスかァ…??」
「えっ!?」
「…!!?!?! 謝花…妓夫太郎…っ!?」
“妓夫太郎”…??!
その名前が響き渡ると、クラス中が一斉に静まり返った。中には恐怖のあまり、机の影に隠れる生徒もいた。
かれんは聞き覚えのある掠れた声に後ろを振り向くと、そこには先程の男子生徒・謝花妓夫太郎が妹の梅と一緒に立っていた。かれんを虐めたクラスメイト達も怖気付き、びくびくと肩を震わせている。
「ちょっ…、何でここに謝花兄弟が…っ!?」
「…コレ、忘れてねェか?」
ドサッ
教卓に置かれたのは、かれんが今まさに取りに行こうとしていたプリントだった。
…!!
まさか持ってきてくれたの…!?
かれんは驚き目を丸くさせた。何故、妓夫太郎がこのようなことをしてくれたのか、全く検討もつかない。
「マジでちょーー重かった。…ねぇ!そこの不細工!!アンタよアンタ!!檜原かれん!!次はないからね!?」
すると梅が、ヒュッとかれんに何かを投げた。
「…っわ!!」
何とか両手で受け取ると、それはかれんの生徒手帳だった。先程、ノートを拾っていた時に胸ポケットから落としていたのだ。
「あ…ありがとうございました!!」
かれんはその場で頭を下げると、梅はふんっと鼻を鳴らし、妓夫太郎と一緒に教室を出ていった。
「檜原さん、何であの二人とツルんで…っ」
「やば!!!冨センが来たぞ!!!皆座れ!!!」