第20章 たなびく風に想いをのせて〈謝花妓夫太郎 / 謝花梅〉
こ、この人…、
めちゃくちゃおっかない…!
かれんはびくびくしながら、後退りしてしまう。
「…梅、どぉしたァ?」
すると今度は足元の方から、掠れた男性の低い声が聞こえてきた。異様な空気に背筋がぶるっと震える。
恐る恐るその声の方を覗くと、酷く目つきの悪い男子生徒が壁にもたれてしゃがんでいた。
「…なンだぁ、お前…。妹になんか用かぁ?……もしかしてアレか?一人でそんなん任されて、梅に八つ当たりかァ??」
「ち、ちち、違います!!すみません!!私、前を全然見てなくて…!!」
「はぁっ?!何それ?!八つ当たり?!ふざけんじゃないわよ!!怪我でもしたらどーしてくれるのよ?!まじでムカつく!!」
「ち、違います!!決してそんなことは…っ」
「ったく、トロいわね!!早く行ってくれない?!邪魔なのよ不細工!!」
「本当、す、すみませんでした!!!」
かれんは勢いよく頭を下げた。しかし、それにより手に持っていたノートがバサバサッと床に落ちてしまった。
「「「 !!! 」」」
や、やっちゃった…っっ
かれんは急いでノートを拾い始めた。
「……ちょっと…、信じられないんだけど。まじで何やってんの…?…ホント無理」
その女子生徒・梅からの罵声がさらにかれんを責め立てた。恐怖心に手が震えながらも、かれんは必死にノートを掻き集めた。
「…お前…ほんとドジなぁ?」
すると壁にもたれていた男子生徒はかれんに近付くと、拾うのを一緒に手伝ってくれた。
え…っ?!
拾ってくれてるの…??
「ちょっ…、お兄ちゃんっ?!何やってるの?!」
かれんはちらりと男子生徒を見ると、ただ黙々とノートを拾ってくれていた。
「…オィ、よそ見してる場合かぁ?早く拾えってんだ」
「っす、すみませんっっ」
かれんは目線を手元に戻すと、残りのノートを全て拾い集めた。
・・・
「…これで全部かぁ?」
「はい…!ありがとうございました!ご迷惑おかけしてすみませんでした…」
ホントよ!!とぷいっと顔を背ける梅。男子生徒はぽりぽりと首筋を掻いていた。
「では、失礼します。本当にありがとうございました…!」
「「……」」
かれんは二人に頭を下げてその場を後にした。