第2章 杏子色に導かれて〈不死川実弥〉
いつもと違う実弥の口調にかれんは思わず緊張してしまう。
「…どうしたァ?」
「…いつもの実弥さんと違うから、ちょっと緊張してます…」
「…俺、もうカッコつけんのやめた。…連絡あんま来ねーし…嫌われてんのかと思ってよォ」
「そんなことないです!私…ずっと、実弥さんに会いたかったんですっ!!」
「…っ」
(はっ!とんでもないことを言ってしまった…っ)
かれんの顔がみるみるうちに赤くなり、居ても立っても居られず、くるりと実弥に背を向けた。恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだった。すると後ろからふわりと実弥の逞しい腕が伸びてきて、かれんをぎゅっと抱きしめた。
「…俺もかれんに会いたくて、我慢できなかった」
「…っ」
「なァかれん、こんなこと突然言うのもヘンかもしれねェけど、かれんのこと、すげぇ大事にしたい。楽しいこともどんなこともかれんと一緒に感じていきてぇんだ。だからもう、一人で全部抱え込むな」
今までの自分の哀しさを全て洗い流してくれるような実弥の言葉にかれんは泣いていた。実弥はかれんの両肩に手を添えて、そっと自分の方へと向かせた。
「…また目ェ赤くなんぞォ?」
実弥はワイシャツの袖でかれんの涙を拭ってくれた。
「…実弥さん、どうして、そんなに優しいんですか」
「…かれんに惚れたからに決まってんだろーが。もう無理に笑おうとすんな。…俺の前では、いくらでも泣いとけ」
「実弥さん…っ」
実弥のあたたかい心が、その想いが、かれんの凍った心をそっと溶かしていった。
・・・
カランカラン───…
数日後。
かれんと実弥は一緒にそのバーに向かった。
「おやおや、お二人ともお揃いで」
「マスター、いつものお願いします」
「畏まりました。かれんさんは?どうしますか?」
「うーん…私もいつものでお願いします」
マスターは手際よくカクテルを作り始め、さっと二人の元にグラスが置かれた。
「…もしかして、その恋を実らせたのかな?実弥くん」
「な"っ…ッ、マスター何言ってんスかっ!!」
「???」