第20章 たなびく風に想いをのせて〈謝花妓夫太郎 / 謝花梅〉
「檜原さぁ〜ん、ねぇコレ、クラスまで運んでくれない??超重くってさぁ…。頼んでいい??」
かれんは理科実験室から出ようとすると、数人のクラスメイトに呼び止められた。
「えっ…、これ、全部…??」
そこにあったのは、クラス全員分のノートとプリント用紙の山だった。どう見ても、一人で運べる量ではない。その日の日直が教室まで運ぶ決まりになっているのだが、その女子生徒達はそれをかれんに無理やり押し付けようとしていた。
「てか、あと10分しか休み時間ないけど?ちゃんとそれまでに教室に運んどいてくれる??」
「えっでも…、この量一人じゃ、できな…」
「は?何?…どーせ友達もいないんだし、ヒマでしょ?ウチら先に教室戻ってやることあんの。…ミスったらマジで許さないから」
「……」
じゃヨロシク〜!とそのクラスメイト達は、甲高い笑い声を上げながら、教室から出て行ってしまった。
かれんはぽつんと一人、理科実験室に取り残された。
…しょうがない、やるしかない
かれんは溜息を吐いた。どうせいつものことだと、悲しささえも感じていなかった。
かれんはあれこれ考えずに、割り切って2往復をして教室まで地道に運ぶことにした。
・・・
…重っ
そこまで分厚いノートではなかったがクラス40名分となると、それなりにずしりと重い。指先の関節を少しでも緩めれば、このノートを床に撒き散らしてしまいそうだった。そんなことになれば、クラスメイトから何を言われるか分からない。
かれんは必死に慎重に、そのノートを運んだ。
実験室から教室までは一つ階を下りなくてはならなかった。かれんは階段を一段ずつ踏みしめるように下りてゆく。
あと、少しで踊り場だ…!
と、その時。
とんっ
何かにぶつかってしまった。
はっと顔を上げると、そこには息を呑むほどに容姿端麗な顔の女子生徒が立っていた。かれんは足元ばかりに気を取られて、前方を見ていなかったのだ。綺麗な瞳がぎろりとかれんを睨ねつけた。
「…いったぁ…。…ったく、何処見てんのよ。ちゃんと目ぇついてんの??」
「ご、ごめんなさ…っ」
見た目とは全く異なった雰囲気に、かれんは泣きそうになってしまった。