第18章 涙を拭いたら〈煉獄杏寿郎 / 竈門炭治郎〉
「みんなにね、どうぞってしたんだ!」
屈託のない炭治郎の笑顔が杏寿郎の目に眩しく映る。
「そうか!炭治郎は偉いな!」
杏寿郎によしよしと頭を撫でてもらい、嬉しそうにする炭治郎。
「では、失礼します!炭治郎くん、またね!」
先生は炭治郎とハイタッチをすると、杏寿郎に頭を下げて再びバスに乗り込んでいった。
・・・
「とうさん、きょうはおしごと、はやいんだね!」
「あ、ああ!思ったより早く片付いてな!」
杏寿郎は炭治郎にどうやって出張の話しを言い出そうか、迷っていた。
「…とうさん、どこか、いたいの?」
炭治郎が心配そうに杏寿郎を見つめた。
「い、いや!何でもない!至って元気だ!」
「……」
杏寿郎の変に溌剌とした返事に炭治郎は首を傾げた。杏寿郎もどうにかして切り出そうと、タイミングを見計う。
「そのだな、炭治郎」
「ん?」
杏寿郎はその場にしゃがみ、炭治郎と目線を合わせた。
「炭治郎に謝らなければいけないことがあるんだ」
「! なあに??」
「その、…日曜日の水族館のことなんだが、…出張に…、…急に仕事になってしまったんだ。…前から約束していたのに、本当にすまない…っ」
心苦しそうに話す杏寿郎。炭治郎は小さく笑った。
「へいきだよ。とうさんのおしごとないとき、いけばいいもん!」
にっこり笑う炭治郎に、杏寿郎の胸が締め付けられた。
「…炭治郎…、本当にすまなかった…」
「ううん、とうさん、だいじょうぶだから」
炭治郎の小さい手が杏寿郎の頭をぽんぽんと撫でた。杏寿郎の目頭がじんと熱くなる。
炭治郎の物分かりの良さには、杏寿郎もかれんも驚愕してしまうほどだ。その分どこかで我慢をさせてしまっているのでは、炭治郎の本当の気持ちを汲み取れないのではと、親としてやるせなさを感じていた。
おなかすいたね!と再び笑顔になる炭治郎に、杏寿郎は上手く返事ができなかった。
・・・
帰宅し、炭治郎と杏寿郎は風呂に浸かった。その後の食事の時も、炭治郎は今日あった幼稚園の出来事を嬉しそうに話してくれた。その様子にかれんと杏寿郎は安堵しつつも、心配の色を隠せない。
「炭治郎、カレーのおかわりは?いる?」
「ううん、もうおなかいっぱい!…なんだかねむたくなってきちゃった」